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5001年アキバウォーズ

時に西暦、5001年の宇宙時代!

宇宙人や、他の星との交流が当たり前になった時代。

だが、オタクは滅びてはいなかった!



漆黒の宇宙に、巨大な宇宙船が浮かんでいた。

これは宇宙船「A-KIVA」だ。

かつて地球のオタク達が、DQNやリア充からの迫害・差別から逃れるために、かつてのオタクの聖地・秋葉原を宇宙船に改造したのだ。その大きさは全長200メートルを超えており、まさに空飛ぶ城といった風情である。

そして今、A-KIVAのブリッジには一人の男がいた。

A-KIVA船長にして、この船に搭乗したオタク達のリーダーでもある人物…………それは…………


「あーっはっはっは! どうだい諸君? 私の完璧な変装術は?」


そう言って高笑いするのは、なんと女装したA-KIVA艦長であった。

彼は自分の顔を鏡で見ながら、満足げな笑みを浮かべていた。


「いやぁ~、私も若い頃は色々あったけどさ、こうやって年を取ってみると、あの頃の苦労が懐かしく思えてくるよねぇ~」


そう言いつつ、艦長は自分の顔を見つめる。

そこには、かつてのキモオタの面影はない。

端正な顔立ちをした女装少年の顔があった。


これは、他星文明との交流により得られた技術によって作られた、つまる所の義体だ。

今の艦長は、脳以外は人工のパーツで作られた、いわば生体サイボーグである。


「しかしまぁ、まさか私がこんな姿になるなんてねぇ~。人生って分からないものだわ」


艦長はしみじみと言った。


「艦長、そろそろ時間です」


副長が言った。


「ああ、分かった。じゃあ行こうか」


艦長は立ち上がり、艦橋へと向かった。

A-KIVAは、すでに発進準備を終えている。

A-KIVAは全長二〇〇メートルの超大型船であり、宇宙空間でも活動できる。


「ではこれより、火星に向けて出発する!久々に火星のメイドカフェに行ってみたいからな!」


艦長の言葉と同時に、A-KIVAは動き出した。


A-KIVAはゆっくりと加速していき、やがて光速を超えた。

そして火星に辿り着いたのだが、艦長や艦のオタク達は、皆驚愕する事となった。


「な、なんだこれは?!」


A-KIVAの周囲には、無数の小型船が取り巻いている。

その全てが武装した宇宙戦艦であり、内蔵した武器の照準をA-KIVAに向けている。


「こいつらは一体何者だ!?」

「艦長、あれを見てください!」


副長が指差す先には、一隻の宇宙船がいる。

それは、一見するとただの宇宙船に見える。

まあ実際、ただの宇宙船なのだが、問題はその艦首に描かれたエンブレム。


「奴ら………「TEN-JIN」だ!」

「TEN-JIN?!あの過激な宇宙人権保護団体か!?」


TEN-JIN。

それは、宇宙の子供の人権を守るという名目で設立された大規模宇宙民間組織。

だがその実態は、自分達の気に入らない表現や創作物を武力を持って抹殺する、かのナチスもびっくりの過激派組織。


実際、A-KIVAのオタク達も嗜む宇宙美少女漫画もいくつも発禁にしてきたし、

宇宙ロリ漫画家を惑星ごと殺害したという記録もある。


とどのつまり、やべー奴らだ。


「艦長!あいつらの狙いは………」

「決まってるだろ………俺達を殺しに来たんだよ!」


A-KIVAを取り囲む小型船から、ビームが放たれた。

宇宙に多く普及した、荷電粒子ビーム砲だ。


「バリア展開ッ!!」

「うおおおっ!!」


艦長の指示に従い、A-KIVAの周囲に光の膜が形成される。

同時に、A-KIVAを取り囲んでいた小型船の一斉射撃が始まった。

ビームの嵐の中、A-KIVAはなんとか耐えきった。


「よし、よくやったぞお前たち!」

「いえ、まだ安心できません!奴らが撃ってきた以上、次はミサイルが来るはずです!」

「チィッ!!やっぱり来るのかよぉ!!」


次の瞬間、A-KIVAの周囲が爆発した。

小型船の放ったミサイルが着弾したのである。


「クソッタレめぇ!主砲展開!!」

「了解!主砲展開!」


爆発によって生じた煙の中から、A-KIVAの主砲が姿を現す。

その先端に光が集まり、光が収束していく。


「いつまでも………俺達がいじめられる側だと思うなよ!」


艦長の瞳がキラリと光る。

増長でもイキリでもない。

そこには、経験から来る確固たる自信と………過去に由来する憤りがあった。


「主砲・MOE-MOEビーム、撃てぇぇぇぇ!!」


A-KIVAの艦首から、極太の光線が発射された。

それは瞬く間に周囲の小型船を消滅させていき……ついには、旗艦らしき宇宙船へと命中………しなかった。


「外れたか………!」


どうやら、相手の指揮官もやり手らしい。

こちらが主砲を撃つ事を読み、船を回避させたのだ。


とはいえ、掠りはしたらしく、船体に爆発が見えている。

ダメージは受けている。

きっと、指揮系統にも混乱が生じているハズだ。

チャンスは、今しかない。


「今だ!A-KIVA船体180度反転!この宙域より離脱する!!」

「ええっ?!火星のメイドカフェは………」

「お預けだそんなもん!俺も残念だが、同志の命には変えられん!」

「了解しました!A-KIVA船体反転します!」


グゴゴゴ、とA-KIVAの200メートルの巨体が反転する。


『逃すかァ!キモオタ共!』


A-KIVAの背後に回り込もうとしていた敵艦隊が、一斉に砲撃を開始した。

しかし、A-KIVAの張っているバリアはそう簡単に破れない。


「全速全身だ!振り切れぇぇ!」


爆煙の中、A-KIVAは駆け抜ける。

ワープこそ、ワープ装置のインターバル中で使えないが、A-KIVAそのものも速いのだ。


『待てェ!!』


背後からは、敵の怒号が聞こえる。

だが、待つわけがない。

A-KIVAはどんどん加速してゆき、ついに太陽系の外まで飛び出してしまった。


「もう大丈夫だろう。追って来れまい」


ブリッジに、安堵の空気が流れる。


「いやぁ~一時はどうなるかと思いましたけど、無事で良かったですね!」

「行きたかったなあ………火星のメイドカフェ」


互いの安全を祝い合うオタク達。

だが、そんな中において、艦長は難しい顔をしていた。


「………また、逃げるしかなかった」


脳裏に浮かぶのは、何十年も前の記憶。

まだ親から貰った身体を持った、オタク少年だった頃の。

そして、オタク故にいじめられた記憶。


無力な自分には、ただ逃げるしかできなかった。

いじめから逃げ、差別から逃げた。

そして今も、オタク故の迫害から逃げて、ここにいる。


「………一体、いつまで逃げ続ければいいんだ?俺達の楽園はどこにある………?」


彼の問いに答えられる者は、いなかった。


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