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世界の崩壊感覚

作者: くらむ

 どこかで見たことがあった。

 ああ。

 そうか。

 坂口安吾の『桜の森の満開の下』で読んだ。

 でも女は白い帽子を深くかぶって桜の花びらになりながら崩壊していく。

 ぼくはあの女の顔を一度も見たことがないのに。

「こんにちは」

 と女が言った。 

 返事をしようか。

「こんにちは」

 女は崩壊していく。

「さようなら」

 もう?

「さようなら」

 もう、ぼくの目の前には女はいなかった。

 ただ永遠に桜の花びらが上から下へ、下から上へと降り続けるだけ(変な日本語だけど)。

 降り続けるだけ。

 降り続けるだけ降り続けるだけ。

 もう思うことがない。

 それで構わないじゃないか。

 だって、ぼくは小説を書いているわけじゃないのだから。

 文字数を稼ぐ必要はない。

 悪文だろうが構わない。

 降り続けるだけ。

 降り続けるだけ降り続けるだけ。

 事実そうなのだから仕方がないじゃないか。

 そう、これは小説ではない。

 ぼくは今こうしてこの世界で呼吸をしている……花びらが口の中に入った。それは味がしなかったが、脳が甘いと錯覚しているのがわかる。

 桜の花びらは、限りなく白に近いピンクだ。

 今の女が、桜吹雪の中に、再び一瞬だけ見えたような気がするけれどそれは錯覚だった。

 というより、初めから女なんていなかったのかもしれない。

 そもそも最初から全てが錯覚だったのかも。

 じゃあ、

「こんにちは」

 と言ったのは? 幻聴だ。

「さようなら」

 と言ったのも幻聴だ。

 おかしいぞ。 

 ぼくの手がどこにもない。

 ぼくの顔は?

 足は?

 目は? 

 目が存在しない。

 だとすると、この桜の花びらを見ているのは、一体なんなのだ?

 ここには桜の花びらしかない!

 わかった!

 桜の花びらが、桜の花びらを見ていたのだ!

 ただそれだけのことだったんだ!

 あははははははは!!!


 ジリリリリリリリリリリリ、

「もう! お兄ちゃんそろそろ起きて。うわっ、その小説によだれ垂れてるよ。きったなーい!」

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