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何度だって君を好きになる  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
第一章 宮野士郎 1
9/58

2-4

          * * *


 騒ぎによって生じた遅れを取り戻すように、企画会議はスムーズに進行していった。

 文化祭における図書室の展示についての説明に始まり、過去の展示内容紹介や当日の図書室待機当番決め。すべて黒部先輩が作った資料やたたき台を元に、滞りなく進んでいく。

 さすがはイベント班三年目だ。黒部先輩の頼りになる感がハンパない。


「――では、当日の当番については、ひとまずこの形で。もしクラスの出し物の事情などで変更が必要になったら、適宜俺に言うように。調整を行う」


 作成し終わった当番表のコピーを配りながら、黒部先輩が言う。

 当日は学校司書の先生とイベント班の班員のうち一名が、常に図書室に待機することになる。班員は一時間ごとに交代だ。うちの高校の文化祭は午前九時から午後三時まで、二日間にわたって開催される。よって、班員一人につき当番を三回行うことになる。


 ちなみに去年は班員が俺と黒部先輩と当時三年だった先輩の三人だったから、当番を四回行った。そういう意味では、今年はちょっと楽と言える。


「黒部先輩、しつもーん! 当番の間は、ただ図書室にいるだけでいいんですか?」


「基本的にはそうだが、稀に訪問客の相手をしなければならないことがある。展示について説明を求められたり、教室の場所を聞かれたりするから、司書さんと協力して当たってくれ」


 夏鈴の質問に、黒部先輩が淀みなく答える。

 それを横で聞いていた樋上が、若干表情を強張らせた。おそらく知らない人間と話すことに緊張したのだろう。ただ、すぐに小さく首を振って、表情を引き締めた。あれはきっと、弱腰になった自分へ喝を入れていたのだろう。やっぱり真面目な子だ。というか、表情がころころ変わって面白いな。なんだか和む。


「さて、他に質問はないな? それでは本日最後の議題に移ろう」


 樋上の表情の変化を楽しんでいたら、黒部先輩が会議を次のフェーズに移した。

 俺も慌てて議事次第に目を落とし、次の議題を確認する。本日最後の議題は今日の会議のメイン、展示内容のテーマ決めだ。


「今年の文化祭のメインテーマは、『歴史』だ。図書室の展示も大枠はそれに則って行う。もっとも、バカ真面目に歴史書を展示して紹介する、といった内容である必要はない。もっと自由に考えて大丈夫だ。さて、何かやりたいことを考えてきた者はいるか?」


「はーい!」


 黒部先輩が意見を求めると、間髪入れずに夏鈴が手を上げた。どうやら、予め考えてきたらしい。その姿勢は素晴らしいのだが……夏鈴のアイデアというだけで、どうにも身構えてしまう。これが偏見だということはわかっているのだけど。


 俺が内心で緊張をはらむ中、黒部先輩が「じゃあ樋上妹」と夏鈴を指名する。

 発言権を得た夏鈴は、自信満々な表情でこう言った。


「『歴史』がテーマなら、ライトノベル文化史とかどうでしょうか。図書室らしく本に関わるものだし、きっと生徒からのウケもいいと思います!」


 夏鈴の声が、準備室内に拡散して消える。

 その余韻に浸りながら、俺は夏鈴に驚きと感動の眼差しを向けていた。どんな奇天烈なアイデアを出すかと思ったら、俺基準ではガチでいいアイデアじゃないか。

 黒部先輩も同じような感想を抱いたらしく、興味深そうな目で「ほう」と相槌を打った。


「出オチのような突拍子もない意見を出すかと思ったら、意外と見どころのあるアイデアを出してきたな。で、具体的には何をやる?」


「わたし、よく知らないですけど、確か毎年ライトノベルのランキング出している本があるんですよね。あれの歴代一位作品を展示して、私たちでレビューを書くとかどうでしょうか」


 夏鈴のアイデアに、俺は口角が自然と上がっていくのを感じた。

 いよいよ俺の好みど真ん中なテーマだ。ライトノベルにはまって早六年。当然、夏鈴が言う本のランキング一位のラノベはすべて読んでいる。レビューを書くくらいお茶の子さいさい、いや、むしろぜひ語らせてほしい!


「いいですね! 俺、夏鈴のアイデアに賛成ですよ!」


 気が付けば、俺は前のめりになって夏鈴のアイデアに乗っかっていた。

 俺と目を合わせた夏鈴は、「やりましたよ!」と言いたげな顔でウィンクを飛ばしてくる。

 そういえば俺、前に夏鈴にラノベが好きって話したような……。ということは、こいつ、俺の趣味に合わせてアイデアを出してくれたってことか? なんか俺、今この後輩のことを本気で見直したかもしれん!


「宮野は賛成、と……。樋上姉、お前はどうだ?」


「あ……私も、それでいいと……思います」


 黒部先輩から話を振られた樋上も、たどたどしく頷きながら同意してくれた。班員三人の意見を受けた黒部先輩は、「ちょっと待っていてくれ」と言って、準備室を後にした。

 何事かと思って待っていると、先輩は一枚のコピー用紙を持って戻ってきた。


「待たせてすまない。樋上妹が言っていたランキングとやらの本が、うちの図書室にあるか確認してきた」


 先輩が、コピー用紙をテーブルの真ん中に置く。そこには、それぞれの本のタイトルが書かれており、その横に七桁の数字が付いていた。うちの図書室で使用している資料番号だ。すべてのタイトルに番号が振られているということは……。


「検索したところ、全タイトルについて図書室に所蔵があることがわかった。これなら問題なく展示を行える。よって、今年の図書館展示テーマは『ライトノベル文化史』で決定だ」


 最終的なゴーサインが、班長である黒部先輩から下された。俺は隣でガッツポーズだ。

 決まったテーマに従い、各自の担当するタイトルを決めていく。なんだかもう、至福の時間だ。これは、否が応でも力が入る。


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