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何度だって君を好きになる  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
第一章 宮野士郎 1
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2-3

「あの、黒部先ぱ――」


「違いますよ、黒部先輩。宮野先輩とお姉ちゃんは、何かえっちいことをしていたんじゃありません」


 俺が釈明を述べる前に、今までどこに隠れていたのか、夏鈴がひょっこり顔を出した。

 もしかして、俺の代わりに誤解を解いてくれるつもりなのか? 意外と良いところもあるじゃないか。(元はと言えば夏鈴のせいでこうなったとも言えるが……)


 黒部先輩も突然姿を現した夏鈴に動じることなく、彼女に注意を向けた。俺もとりあえず口を閉ざし、夏鈴に話の舵取りを任せる。

 頼むぞ、夏鈴。すべてはお前にかかっている……。


「いたのか、樋上妹。それなら、あの二人は一体何をしていたんだ?」


「宮野先輩がおもむろにお姉ちゃんの胸をガン見して、お姉ちゃんが泣き出しちゃったから、慌てて土下座で謝っていたんです」


「ちょっと待て!」


 慌てて夏鈴と黒部先輩の間に割って入る。前言撤回。この小悪魔を信じた俺が馬鹿だった!

 一方、夏鈴は血相を変えた俺に、「えー?」とわざとらしく小首を傾げた。


「なんですか、先輩。わたし、嘘は言っていませんよ。黒部先輩の誤解が解けるよう、細心の注意を払いました」


「確かに嘘はついていないけども! 樋上への誤解を晴らしてくれたことにも感謝するけども! お前の所業を消してそこだけ切り取られたら、俺もうただの救いようもないほど度し難い変態じゃん!」


「実際、変態ですよね~。先輩、わたしの体もまさぐってきたし~」


「言い方に悪意しかない! あれは、いきなり抱き付いてきたお前から逃げようとしただけだろうが!」


 全力でツッコミを入れる俺へ、夏鈴は正しく小悪魔の笑顔で応じる。

 どうやら夏鈴のヤツ、俺を困らせて楽しんでいるようだ。もしくは、昼休みの件を根に持っていたのかもしれない。どちらにしても、この切羽詰まった中で厄介なことしてくれやがったな! こいつ、俺史上最悪のエンターテイナーだよ、ちくしょう!


「宮野、もう少し声を落とせ。外に響くと図書室の利用者に迷惑だ」


 恨みの籠った涙目で夏鈴を睨んでいると、黒部先輩が背後から宥めるように俺の肩へ手を置いた。

 もはや弁明どころか言い訳もしようがない状況下でびくびくしながら振り返ると、黒部先輩は『すべてわかった』という表情をしていた。


 今ので何がわかったのだろう? 樋上に代わり、今度は俺が顔面蒼白になる番だ。もはや社会的に処刑される未来しか見えない。ゴルゴタの丘が、俺を手招きして待っている。

 しかし、先輩は俺を糾弾することなく、俺の後ろでにやいている夏鈴へ目を向けた。


「大体の事情は、今のを見ていてわかった。――樋上妹、図書室で騒ぎになりそうなことを画策するな。次にやったら出禁にするぞ」


「あ、バレた。――はーい。ごめんなさい」


 黒部先輩に窘められた夏鈴が、あっさりとてへぺろポーズで謝罪する。ふざけた謝り方なのに、こいつがやると様になるのが腹立たしい。


 というか……あれ? もしかして俺、助かった? でも、なんで?


 わけがわからないまま、呆れ顔で眼鏡の位置を調整している黒部先輩を窺う。

 先輩が聡明な人だということは知っているが、今の俺と夏鈴のやり取りだけで、どうして夏鈴が黒だと断定できたのだろう。夏鈴の人となりを知っていたのか? でも、先輩と夏鈴が顔を合わせたのは、最初の委員会の時だけのはず……。

 そんな俺の疑問が顔に出ていたのだろう。黒部先輩は事もなげに答えてくれた。


「樋上妹については、三年の間でも色々と噂が広がっている。まだ入学二週間だというのに、学校のアイドル扱いだ。当然、昼休みにお前や樋上姉を相手に騒ぎを起こしていることも噂になっている。おかげでうちのクラスの男どもから、お前について色々質問を受ける羽目になった」


「は、はは……。そうですか……。なんかご迷惑おかけして、すみません」


 先輩からの情報に、自然と表情が引きつってしまう。夏鈴が有名人なのは長沢から聞いていたが、俺たちまで巻き込まれて噂になっているとは思わなかった。


 あと、長沢の「刺されるのでは?」発言がより一層現実味を帯びてきたな。まさか、すでに素行調査まで入っていたとは……。これからは、暗くならない内に下校することにしよう。夜道の下校、超危険。


「ともあれ、今回のことは樋上妹も主犯であると認めたし、俺は何も見なかったことにしておくよ」


「ありがとうございます。助かります」


 安堵のまま、黒部先輩に御礼を言う。先輩は、「気にするな」と朗らかに笑った。

 本当に、見られた相手がこの人で助かったよ。不幸中の幸いというやつだ。


「俺も、お前が良識を欠く行為に及ぶなんて、最初から思っていなかったしな。ただ、お前が樋上姉を泣かせたというのが事実なんだろう? だったら、その点についてはきちんとけじめをつけてこい。禍根を残すのは、お前たちの今後によくない」


「……はい」


 先輩に向かって、はっきりと頷く。図らずも先輩に後押しされる形となった俺は、一人蚊帳の外状態だった樋上の前に立ち、しっかりと頭を下げた。


「樋上、さっきは無神経なことをして悪かった。本当に、ごめん」


「い、いえ……。私の方こそ、あの程度で泣き出してしまって……ごめんなさい。気が動転していたとはいえ、ちょっと過敏過ぎました」


 謝ったら、なぜか即座に謝り返された。

 そこが樋上らしいというか、何というか。図書室へ向かっている時も思ったけど、謝り慣れ過ぎているな、この子は。反省しなければいけないとわかっているんだけど、なんだかそれが無性におかしくなって吹き出してしまう。

 やばいと思って樋上の様子を窺ったら、彼女も声を殺して笑っていた。

 これは……ひとまず許してもらえたということでいいのかな?

 俺が判断に迷っていると、樋上は俺の横を抜け、黒部先輩に声をかけた。


「あの……、お手間を取らせてすみませんでした。もう大丈夫ですので、その、会議を始めてください」


「そうか。それじゃあ少し遅くなったが、企画会議を始めるぞ」


 万事解決と判断した黒部先輩が、イベント班全員に向かって呼びかける。

 なんか会議前から全力出し切った感があるが、俺はようやく会議が始まることにホッとしながら席に着いた。


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