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何度だって君を好きになる  作者: 日野 祐希
第一章 宮野士郎 1
6/58

2-1

 午後の授業が終わり、放課後。

 カバンに教科書やノートを詰め終えた俺は、隣の席に声を掛けた。


「樋上、準備できたか?」


「あ……。ご、ごめんなさい。その、あと少し……」


 声をかけられた樋上が目に見えて慌て始め、動かす手を早める。


 けど、それがいけなかった。早くしようと焦っているせいか、荷物がなかなかカバンに収まらない。結果、普通に支度をするよりも時間がかかってしまい、樋上は早くも顔が真っ赤で涙目だ。

 これは、声を掛けるタイミングを誤ったな。樋上の帰りの支度が済むまで、待っておけばよかった。


「別に焦んなくていいから。まだ時間あるし」


「はい……。ごめんなさい……」


 ひとまず落ち着かせようと声を掛けると、樋上はシュンと落ち込んだ様子で謝ってきた。

 ある意味樋上の口癖なんだろうけど、俺、この子から一日に何度謝られているかな。なんだか逆に俺の方が罪悪感を覚え始めてしまう。


 ともあれ、一度手を止めたことで、樋上も焦りが抜けたようだ。恥ずかしそうにしながらも、テキパキと荷物を片付けていく。

 支度を終えてカバンを肩にかけた樋上は、俺の方に体を向けた。


「あの……、お待たせ……しました」


「うん。そんじゃあ行くか」


 樋上と連れ立って、教室を後にする。と言っても、二人で一緒に下校するというわけではない。二人で委員会に参加するのだ。

 俺と樋上は、中学の時と同じく二人揃って図書委員になった。ちなみに俺の方は、二年連続の図書委員だ。


 うちの高校の図書委員会は普段の図書室当番に加え、内部で三つの班に分かれて活動している。夏休みに蔵書点検などを行う蔵書班、月一で『図書館だより』を発行する広報班、そして文化祭での図書館展示や近隣図書館との合同イベントを行うイベント班だ。


 人数的には、『楽だから』という理由で蔵書班が圧倒的に多い。次が広報班だ。イベント班は、年によっては人数調整が必要になるくらい人気がない。イベント班が行う活動の中には読み聞かせなんかもあるから、みんな嫌がるんだ。


 で、オレと樋上はその人気がないイベント班所属。今日は六月初旬の文化祭に向けて、一回目の展示企画会議に出ることになっている。


 ああ、一応言っておくけど、俺たちがイベント班に入ったのは、じゃんけんに負けてとか、そういう理由ではない。二人とも自薦だ。俺は去年もイベント班だったし、割と気に入っているんだ。


 もっとも、樋上がイベント班に立候補したのには正直驚いたけど。絶対に蔵書班を選ぶと思っていた。性格的に、こういう活動は避けると踏んでいたし。


「み、宮野君、どうか……しましたか……?」


 隣を歩く樋上が、恥ずかしげに頬染め、視線をさまよわせながら訊いてくる。

 どうやら考え事をするうちに、樋上の方を見てしまっていたようだ。それが、樋上にとっては恥ずかしかったらしい。


 こうしてみると、やはり昼休みとは別人のようだ。少なくとも今はどもりまくりだし、夏鈴に向けていたような敵意も感じない。


 もしかしたら樋上は、家の中と外で性格が変わるタイプなのかもしれない。だから夏鈴に関することに対しては、少し様子が変わるのかも。まあ、だとしても夏鈴に向けるあの強い敵意と俺への警告の意味は謎だけど……。


「宮野……君?」


「ああ、すまん。なんでもないんだ。樋上がイベント班に入ったのはなんでかな~って考えてたら、つい……。悪かったな、ジロジロ見ちゃって。俺、キモかったよな」


 変な誤解を生んでも困るので、正直に考えていたことを白状する。別に知られて困ることでもないしな。


「いえ、そんなことは……ないですけど……」


 そうしたら樋上は不意に足を止め、曖昧な笑みを浮かべながら首を振った。俺も立ち止まって体ごと振り返ると、樋上はやや俯いた姿勢で、ポツリと口を開いた。


「でも、やっぱり変……ですよね。私が……イベント班なんて。キャラに合っていないというか……」


「いや、樋上が立候補した時は少しびっくりしたけど、変とか似合わないとかまでは思わないよ。むしろ、面白いと思った。正直、樋上がやる読み聞かせ会とか、すっごく気になるし」


 少しおどけた調子で肩をすくめてみせる。

 それを見た樋上は、クスリとおかしそうに笑って「本当に正直ですね」と漏らした。

 彼女の仕草に、思わず目を奪われてしまう俺。

 やばい。今の不意打ちの笑顔は、かなり可愛かった。少し顔に熱を感じる。


「でも、自分でキャラに合わないと思っていたなら、なんでイベント班に?」


 熱を誤魔化すように顔を少し逸らしながら、樋上に問う。

 すると樋上は、再び歩みを進めながら「それは、秘密……です」とだけ答えた。


「でも、イベント班に入って良かったとは思っています。イベント班の活動は、とても楽しかったから」


「『班の活動が楽しかった』って、本当の活動を始めるのはこれからだぞ」


「あ……、そう……でしたね。すみません、間違えました」


「まあ、楽しいってことには自信を持って保障するけどさ」


 困ったように笑う樋上に、気にするなと返す。イベント班の先輩として、本当に樋上が楽しいと思ってもらえるようにサポートしていかなきゃな。


 そう思ううちに、俺たちは図書室に着いた。

 うちの高校の図書室は、一般教室棟二階の端にある。二年の教室と同じフロアだ。

 すでに開室中になっている図書室に入り、奥へ向かう。図書室当番が座っているカウンターの脇を抜けていくと、そこにあるのは準備室だ。こぢんまりとした四畳半ほどの部屋で、中央に大きめのテーブルといくつかの椅子が設置されている。普段は昼休みの当番がお弁当を食べるのに使っている部屋だ。


 イベント班は人数が少ないから、今日はここで会議を行うことになっている。

 準備室に入ると、まだ誰も来ていなかったらしく無人だった。ひとまず適当な椅子に腰かけ、全員揃うのを待とう――とした、その時だ。



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