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何度だって君を好きになる  作者: 日野 祐希
第四章 宮野士郎と樋上雪奈の章
41/58

1-2 ―Side: S―

          * * *


 朝から勢い込んだはいいものの、結局放課後になるまでにチャンスは訪れなかった。


 というか、完全に避けられている。休み時間になると雪奈はすぐにどこかへ行ってしまい、次の授業の開始直前まで戻ってこない。


 ならば昼休みはと思ったが、いつものごとく夏鈴が俺に付きまとっても、雪奈は割って入ってくることがなかった。ふと雪奈の席の方を見やるとこちらを窺ってはいるのだが、目が合うとすぐ気まずそうに逸らされてしまった。かなりショック。


 けど、雪奈に避け続けられたおかげで、なんか逆に心が清々した。背水の陣ではないが、失うものが何もなくなった今の俺は、ある意味無敵だ。前に進むしかなくなったので、自棄を通り越してやる気に満ちている。


 絶対に今日中に決着をつけてやる! そんな意気込みのまま、図書室を目指す。

 雪奈と接触する最大最高のチャンスは、ここだ。今、俺と雪奈は二人で展示の年表作りを行っている。つまり、二人にならざるを得ない。これなら雪奈と話すこともできるはずだ。


 二人にとって因縁深い図書室で、すべての決着をつける。きっと、これが正解だと思う。

 雪奈はすでに図書室にいるはずだ。ホームルームが終わるとすぐに教室を出ていったが、あの律儀で真面目な雪奈が仕事を放り出して帰るとは思えない。


 そんなことをつらつら考えているうちに、図書室の前に着いていた。

 文化祭の準備が佳境を迎える中、図書室を訪れる生徒はいない。普段なら迷惑を考えてできない行動も、少しならできる。


 俺はすぐに図書室に入ることはせず、扉の前で立ち止まった。そのまま、大きく二回ほど深呼吸する。

 ここから先、焦りは禁物だ。迸る情熱を曇りなき冷静さでコーティングしなければならない。故に、たっぷり十秒ほど時間をかけて、心を落ち着かせる。


「……よし、行くか!」


 新鮮な空気を取り込んで広がった視野で、今度こそ図書室の扉を開けた。図書室の中は、予想通りがらんとしている。閲覧席には人っ子一人いな……いや、一人だけ閲覧席に座って本を読んでいる生徒がいる。黒部先輩だ。


「……ん? 宮野か」


「お疲れ様です、黒部先輩」


「お疲れ」


 俺に返事すると、黒部先輩はさっさと読書へ戻ってしまった。何を読んでいるのかと覗き込んでみれば、黒部先輩がレビューを担当しているラノベだ。どうやらまだレビューを仕上げていなかったらしい。


「この土日に仕上げてしまうつもりだったが、遊園地へ行ったこともあって終わらなかった。すまないな」


 背中に心眼でもあるのか、本と一緒に俺の心を読んだかのように先輩が謝ってきた。

 俺の周り、テレパシストみたいな人ばっかだな。それとも、俺の方が考えていることだだ漏れなのか? だとしたら、早急に改めなければ……。


「いえ、先輩は展示の取りまとめの仕事や受験勉強もあるんですし、仕方ないですよ」


 ともあれ、ひとまず先輩には「ゆっくりやってください」と言っておく。先輩の作業が終わっていないということは、年表作りは引き続き俺と雪奈の二人で行う作業ということだ。俺にとっては都合が良い。夏鈴の進捗状況は知らん。けど、おそらくあいつも終わってないだろうから、問題ない。


「先輩、雪奈は準備室ですか?」


「ああ。さっき、『奥で年表の続きをやっています』と言って、入っていった」


 先輩が俺の問い掛けに頷く。

 よっしゃ! これでさらに話をしやすくなった。


「了解です。じゃあ、俺も雪奈と一緒に作業してきます」


「ああ。よろしく頼む」


 再び文庫本に集中し始めた黒部先輩を残し、カウンターの奥へと向かう。

 準備室に入ったら、とりあえず普段通りに接するようにしよう。変にこちらが構えていると、雪奈も警戒してしまうだろうし。


 カウンターにいた司書の先生に軽く目礼して、準備室の前に立つ。最後にもう一度深呼吸した俺は、扉を開け――かけたところで、その手を止めざるを得なくなった。


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