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何度だって君を好きになる  作者: 日野 祐希
第二章 宮野士郎 2
17/58

1-1

 ゴールデンウィークが終わると、五月病になる暇もなく、うちの高校の雰囲気は一気に浮足立ったものとなった。中間テストと、その先に待つ文化祭。二つのイベントが目前に控えたことで、生徒たちも気が気ではいられなくなっているのだ。


 中間テストまで残り一週間を切った現在は、平均して文化祭が三、テストが七といった気の配り方だろうか。目下全校生徒の関心事は、如何にして中間テストを無事に乗り切るかの方にあった。

 成績上位者の熱が入っているのはいつものこととして、普段は低空飛行をしている連中もこのテストだけは気合を入れている。理由は単純で、ここで追試にでもなったら、文化祭の準備どころではなくなってしまうからだ。


 みんな、文化祭は何の気兼ねもなくはっちゃけたい。よって、テストで赤点を取るわけにはいかない。統一的な強い意志のもと、校内は自主的学習強化週間と化している。

 その上で文化祭の準備も着々と進めているのだから、うちの生徒の潜在的なポテンシャルは意外と高いのかもしれない。


 当然、俺や雪奈も例外ではない。成績上位をキープしたい俺はもちろん、雪奈も勉強には力を入れている。今では朝だけでなく、休み時間や昼休みにも俺に質問しに来るようになった。おかげで俺の勉強量も自然と増えて、テスト勉強がいつも以上にはかどっている。


 浜松まつり以来、雪奈との関係は極めて良好と言えるだろう。さすがにクラスでは苗字呼びにしているが、前よりもより一層会話が弾むようになった。それに、図書室当番の時の連携も、前より良くなったと思う。俺にとっては、うれしい変化だ。


 ただまあ、そんな充実した生活の中でも、悩みというものはあるわけで……。

 浜松まつり以降、夏鈴のスキンシップもより激しいものになってきたのだ。所構わず腕や背中に抱き付いてくるので、周囲(主に男)からの視線が痛い。たまに某ジブリ映画の滅びの呪文を呟かれることもある。正直、目がマジなのでガチで怖い。


 雪奈も助けようとはしてくれるのだが、今となってはそれも問題だ。どうやら周囲から見ると、俺が樋上姉妹を毒牙にかけているように見えるらしい。よって、俺へ向けられる嫉妬と憎悪の視線は倍増、雨あられ状態である。


 そしてこれは、そうやって俺が男子生徒のヘイト値をガンガン上げ続けていた、とある金曜日の放課後の出来事だった――。


          * * *


「先輩、わたしに勉強を教えてください!」


 夕日で金色に染まる準備室。まっすぐに俺を見つめる夏鈴は、太陽に負けない明るい笑顔を浮かべていた。


 なお、今はイベント班の会議が終わった直後だ。展示に使うラノベレビューの進捗状況を報告し合うため、俺たちイベント班員は週一くらいでこうして集まっている。黒部先輩はいつも通りさっさと準備室を去り、今は俺と雪奈、夏鈴の三人だけだ。


 ちなみに今日段階での進捗状況は、俺と雪奈は一度読んだことがある作品ばかりのため、すでにレビューを書き終えている。黒部先輩と夏鈴は、ようやく一作品目のレビューを書き始めたというところだった。


 ……とまあ、現実逃避はこれくらいにしておこう。俺は無邪気な瞳でこちらを見つめる後輩と視線を合わせ、優しく微笑みながら訊き返した。


「ほうほう、勉強を教えてほしいか。……で、今度は何を企んでいる?」


「いやですね、先輩。それじゃあまるで、わたしがいつも悪巧みしているみたいじゃないですか」


 先輩は冗談がうまいな~、と言わんばかりの顔だ。


 うん、冗談じゃないからね。君はちょっとこれまでの自分の所業を一つ一つ思い出してみようか。そうすればわかるでしょ。ガチで訊いているからね、俺。

 表情から俺の心情を読み取ったらしい夏鈴は、「今回は本当ですよ」と身の潔白を訴えるように手を振った。


「わたし、実はそんなに成績良くなくて、今ちょっとピンチなんですよ。だから、成績優秀者である先輩に助けてほしいな~、と思いまして……」


「本当か? 本当にそれだけか?」


 言葉の上だけでなら、何とでも言えるからな。今までも、それでひどい目に遭ってきた。

 よって、これでもかというほどの疑いの眼差しを夏鈴に向ける。


「本当ですって。もちろん先輩がお望みなら、勉強を教えてもらうお礼にそれ以外のことをするのもやぶさかではありませんが……」


「言っとらんだろうが、そんなこと!」


「い、いい加減に……しなさい!」


 ポッと頬を染めて「キャッ!」と可愛らしく照れる夏鈴に、全力のツッコミを入れる。

 同時に、聞くに堪えなくなったらしい雪奈が俺と夏鈴の間に割り込んできた。こちらは妹以上に顔を赤くしている。なんかよからぬことを想像しちゃったんだろうな……。


「お、お礼って……あなた、一体何をするつもり? 宮野君に変なことしたら、私が許さないから」


「あれ~? お姉ちゃん、顔が赤いよ。もしかして、『お礼』って言葉に反応して、いけないことでも想像しちゃった? うわ~、お姉ちゃん、いやらしい~」


「なっ! な……」


 妹からの切り返しを受けて、言葉を詰まらせる雪奈。普段は色白な顔が、今やトマトのようだ。耳まで赤い。


「ねぇ、先輩もそう思いません? お姉ちゃんって、結構エロいですよね!」


 俺が雪奈の様子を観察していると、夏鈴がこちらに話を振ってきた。

 瞬間、雪奈がものすごい勢いでこちらを振り返った。目元に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうだ。こんな時になんだが、これはこれでかなり可愛い気が……。


 というか、それ以前になんてところでキラーパスを寄こすんだ、この小悪魔は! この状態の雪奈を、俺にどうしろと?


「あ、あの……宮野君……、これは、違……。私、別に……」


 俺に誤解されたと思っているのか、必死に弁明する雪奈。

 いや、別に言われなくてもわかっているのだが。というか、夏鈴の態度と仕草を見れば、誰だって似たようなこと想像するし。

 仕方ない。こうなったら、下手に考え過ぎるより、正直に行こう。


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