表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何度だって君を好きになる  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
第一章 宮野士郎 1
11/58

2-6

「宮野君、その……あの子が迷惑をかけて、ごめんなさい」


「いや、気にしないでいいって。それよりも、樋上ってライトノベルとか読むんだな。知らなかったよ」


 正直、樋上とライトノベルという組み合わせはかなり意外だった。何となくイメージ的に、古典文学とか一般文芸系の方を読みそうというか……。

 そんなことを考えながら笑っていると、樋上は少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「前に……ライトノベルを熱心に紹介してくれた人がいて……。それで読んでみたら……思っていたよりも面白くて……」


「なるほど。それで、気が付いたらドハマりしていたと」


 俺が言葉を引き継ぐと、樋上は小さく頷く。ただすぐに、「変……ですか?」なんて言いながら、恐々といった顔で俺を見上げてきた。


 どうやらこの子は、俺から気持ち悪がられていないか、気にしているらしい。同じラノベ好きである俺が、そんなこと思うはずないのにな。

 けど、本人が気にしているなら、きちんと否定するべきだろう。俺は樋上にわかるよう、勢いよく首を振った。


「全然変なんかじゃないよ。むしろ、身近なところで同志を見つけられて、うれしいくらいだ。良かったら今度、樋上のオススメを教えてくれよ」


「わ、私なんかのオススメでよかったら、いくらでも……」


「サンキュ。にしても、樋上にラノベを勧めてくれたその誰かに感謝しないとな。まさか樋上とこの話題で盛り上がれるとは思わなかったし」


「はい……。――その人との間にあったことは……私にとって大切な思い出です」


 そう言った樋上は、頬を染めたまま可愛らしく、けれどほんの少しの寂しさを覗かせながら微笑んだ。もしかしたら樋上は、その相手のことが好きだったのかもしれないな。そう思えてしまうくらい、今の樋上の笑顔は本当に魅力的だった。


 なぜか知らないが、胸と頭の奥がチクリと痛む。樋上にこんな顔をさせたその男に嫉妬してしまう。……いや、樋上にラノベを勧めた人物が男かどうかは知らないけど。


「それよりも……あの、宮野君、時間は……大丈夫ですか? 今日も、お祭りの練習があるんじゃ……?」


「ああ、ラッパ隊の練習なら、七時からだから問題ない――って、あれ? なんで樋上がそれを知ってんだ?」


 樋上から訊かれたことへ何の気なしに返事をした直後、ふとそのおかしさに気付いて首を傾げる。確かに俺はこの後、浜松まつりのラッパ隊の練習に参加することになっている。だけど、なんでそんなことを樋上が知っているんだ?

 俺が疑問を膨らませていると、樋上はハッとした様子で慌てて言葉を継いだ。


「え、ええと……そう。前に宿題を教えてもらった時に、宮野君がお祭りのこと話していたから……。今日も練習なのかな、と思って。訊いちゃいけないことだったら、ごめんなさい!」


「あ、そうだっけか? いや、別に隠しているわけじゃないから、いいんだけど」


 何となく腑に落ちないものを感じながらも、テンパっている樋上を宥める。

 俺、そんな話していたっけか。まったく記憶にないんだが……。まあ、樋上が知っているということは、たぶん俺が忘れているだけなんだろう。この歳で物忘れとか、シャレにならないな。気を付けないと。


「あ、ありがとうございます……。それで、あの、そのお祭りのことなんですけど……」


 俺の許しを得られて、問題なしと判断したのだろう。俺が自身の記憶力に危機感を抱いていると、樋上がさらに浜松まつりについての話題を広げようとしてきた。

 ひとまず聞きの姿勢に入って、続く樋上の言葉を待つ。樋上は一度呼吸を整えると、かつて見たことないくらい顔を赤くして俺の瞳を正面から見つめた。


「できれば、私も参加したい――」


「先輩、先輩! 『お祭り』って何ですか!?」


 その時、樋上の声に被せるようにしながら、夏鈴が唐突に顔と口を出してきた。

 突然の乱入に驚き、俺と樋上は声にならない悲鳴を上げながら、盛大に肩を震わせる。

 夏鈴、まだいたのか。さっさと荷物をまとめていたから、もう帰ったと思っていた。


「先輩たち、驚き過ぎですって。それともわたし、お邪魔でした?」


 夏鈴がニタニタと下世話な笑みを浮かべる。仮にも学校のアイドル化している女の子が見せていい顔じゃないな、これ。

 夏鈴の品のない笑顔で正気を取り戻した俺は、やれやれとため息交じりに口を開いた。


「別に、邪魔ってことはないけどさ。会話に入ってくるなら、もうちょっと普通に入ってこい。あと、その笑顔やめろ。なんかムカつく」


「わかりました、次から気を付けます。で、『お祭り』ってなんですか?」


「いや、何ですかって……。お前も浜松に住んでいるなら知っているだろう。浜松まつりのことだよ」


「あ~……ああ! はいはい、あれですね。思い出しました」


 しばらく考えた末に、夏鈴はポンッと手を打った。どうやら本気で忘れていたらしい。一応、浜松市の伝統行事で、観光の目玉なんだけどな。毎年参加している人間としては、忘れられているとなんか悲しい……。


「先輩、その浜松まつりに参加するんですか?」


「ああ。これでも一応、小学生の頃からラッパ隊に入っているからな。今年も参加するよ」


 俺が答えると、夏鈴は艶やかな唇に人差し指を当てて、何かを思案し始めた。

 背筋に悪寒が走る。経験上、これはちょっとヤバい流れな気が……。

 俺が戦々恐々としていると、思案を終えたらしい夏鈴が、満面の笑顔で大きく頷いた。


「わかりました! 先輩が参加するなら、わたしも浜松まつりに参加します!」


「はあっ!?」


 何となく予想はついていたが、それでも大仰に反応してしまう。

 夏鈴の横では、樋上も驚きに目を丸めていた。ちょっと先を越された感というか悔しさのようなものも見て取れるが、総じて夏鈴の発言に戸惑っている様子だ。この子はいつも妹の突拍子もない行動に振り回されてばかりだな。かわいそうに。


 一方、俺たち二人から驚きと戸惑いの視線を向けられている夏鈴は、自信満々、得意げな顔だ。ナイスアイデアと言わんばかりである。

 俺は、数分前と同じく諦めの境地で天井を仰ぎ見た。


 夏鈴が浜松まつりに参加するって、本気かよ――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ