表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

見えないお顔

 


 国立教育機関、ミーティス魔法学園。

 ここにもう半年は通っているとはいえ、まだ謎なことは多い。

 これから俺たちが会いに行く存在も、そんな謎のひとつだった。


「はい、ここで大丈夫です。案内ありがとうございました」

「まったく。君が誰か知りませんが、くれぐれもあのことは……」

「わかってますよ。トマス先生、それではまた」


 ニコニコと笑顔を振りまき、先生の姿が消えるまで手を振り続ける。

 学園長の部屋まで案内されたらこっちのもんだ。


「……貴女、うまくその身体を使いこなしてるじゃない」

「やめてくれ本当」


 姫様に茶化されるのも仕方ない。

 貴族が多く通う国立学園。

 男言葉で野蛮なメイドなど、門前払いされてもおかしくない。

 なのでメイドのフリをしてトマス先生を脅し……こほん。

 お話をしてこの場所まで案内してもらった。

 セキュリティとか、それでいいのか魔法学園?


「にしても、まさかトマス先生の趣味が利用できるとは」

「あの男性すごいわね。私の方には目もくれなかったわ」

「………………」


 サッと目線をそらす。

 俺はトマス先生の趣味趣向を知っているため、口は災いの元だ。

 ここは姫様がキレる前に用事を済ませるほうがよい。


「さ、さあ! 学園長と交渉しよう!」

「ちょっと。どうして目を合わせないのかしら。こうなったら魅了で――あ、待ちなさい」


 ジト目を向けてくる姫様の手を取り、ノックを2回。


「入れ」

「失礼します」


 そこは執務室のような部屋で、大きな机が置かれていた。

 そして家具に似合わぬ、小柄な美女が綺麗な姿勢で座っている。


「ん、誰じゃお主らは」

「アポなしで失礼します。この度、入学許可をいただきたく参上しました」


 両手でメイド服の裾をつまみ、軽く持ち上げて頭を下げる。

 屋敷にいるときはレイラを観察していただけあって、いまではカーテシーもお手の物だ。

 隣からニヤニヤする表情を感じられるが、ここでメイドを崩すわけにはいかない。


「本日は私とこのお嬢様の入学許可を――」

「帰れ」


 学園長の興味は既に失せたらしい。

 もう用は済んだといわんばかりに無視され、どういう原理か後ろの扉が開かれる。


「待ってください。話を聞いてください!」

「急な来客というだけでも迷惑なのに、ハッ。貴族の売り込みになんぞ付き合ってられん。こちとら忙しいのじゃ」

「や、闇魔法を――」

「あら、誰かと思えばみーちゃんじゃない」


 ピク、と学園長の身体が硬直する。

 みーちゃん? 誰?


「あの、姫様?」

「変わりすぎて気づかなかったわ。ああそう、ここはみーちゃんの学園だったの」


 姫様がコツコツと歩みを進める。

 展開についていけない俺は、その後姿を見送ることしかできない。

 いや、せめてもの気遣いで勝手に開いた扉をそっと閉じた。


「だ、誰じゃお主は。我のことをみーちゃんなどという不届き者は――」

「ふふっ、ねぇ? 本当にわからないのかしら?」


 姫様は机にスッと乗り上げると、横すわりになって学園長の顎を持ち上げる。

 行動は男を誘惑する美女のようだが、残念ながら少女と美女だ。

 学園長もなぜかされるがままになっており、ここは姫様の独壇場であった。


「こーんなにキレイになっちゃって。そろそろ食べごろかしら?」

「た、食べ頃だって? ままま、まさかお主は――っ!」

「いただきまーす」

「あっ」


 かぷっ。

 それは誰があげた声だったか。

 どちらかが制止する間もなく、姫様は学園長の首筋に咬みつく。


「あっ、ちょ、んんっ!」

「うわぁ……」


 学園長が、人には見せちゃいけないような表情を浮かべている。

 他人が血を吸われている様子は初めてみたけど、あんな恍惚そうな顔をしてされるがままになっているなんて。

 見ているこっちまで恥ずかしくなっていくような、身体がムズムズとするようなもどかしさ。

 え、でも待てよ?

 ということは、まさか俺もレイラの身体であんな表情を――――。


「……ふぅ。悪くはないけどダメね、不合格」

「あ、ああぁっ、う、あぁ……」


 びくびくとする美女、もとい学園長。

 勝手に吸われて不合格認定され、実に不憫だと思う。

 けど、そんなことより。


「ひ、姫様? もしかして血を吸われる相手って、今の学園長みたいな……」

「ん、この子が感じやすいだけじゃない?」

「そうです、よね? よかった……」


 学園長が敏感なだけで、レイラの身体はそこまで――。


「貴女は我慢しようとしてしきれていないところがいいわね。ただ、感じ方は貴女も負けていないはずよ」

「えっ、それは」

「まあいいわ。ほら、いつまで余韻に浸っているのよ。起きなさい」


 姫様は恐れることもせず、学園長の白い頬をばちばち叩く。

 俺はそんなことより、自分がどんな表情を浮かべてしまうのかのほうが気になっていた。




 ◇◇◇




「まさか貴女が、人間社会に溶け込んでいるとはね」

「わたしだって、まさかアナスタシア・エリ――」

「やめて」

「こほん、失礼。アナスタシア様がいらっしゃるとは思いませんでした」


 そういって、見た目少女の姫様にぺこぺこする美女、もとい学園長。

 赤くした頬でニコニコと媚びる姿は、もう学園長などという威厳はない。

 おかしいな?

 何十年も姿が変わらぬクール美人、というのが謎の1つだったはずなのに。


「あのー姫様? 学園長と知り合いなのですか」

「ええ。それと、この子の前では作らなくていいわよ。交渉なんてするまでもないわ」

「えぇ……」


 学園長は可哀そうなくらい縮こまっており、なんでもこちらの思い通りになりそうな気分にさえなってくる。

 この2人の関係、ひじょーに気になる。


「しかし、こちらも立場というものがありまして……」

「みーちゃんは私に逆らえるのかしら?」

「ひぅ、すみません……」


 さっきまでの高圧的な態度は何だったのかと思うほど別人だ。

 これがいつもキリッとしてできる女性の学園長?

 配属されたばかりの新人女性にしか見えない。


「こちらの要求は3つよ。ひとつ、私と彼女を入学させる。ふたつ、ある液体の定期的な仕入れ。みっつ、国からの擁護」

「そんな無茶苦茶な……」

「みーちゃんを育てたのは誰だったかしら? そうね、なんなら子供の頃山で――――」

「わかりましたわかりました! まかせてください!」


 みーちゃん、もといミティアさんが土下座する勢いで謝っている。

 17歳の姫様が親だったみたいな話があったけど、ミティアさんもまさか?


「あの、ミティアさんって何歳ですか?」

「え? ああ。わたしはにひゃ――――」

「黙りなさい。私の嘘……こほん。年がバレるじゃないの」


 いま姫様嘘っていいましたよね?

 さんびゃく17歳なら、ミティアさんの親代わりも納得の年齢だ。

 母娘の見た目が逆転してるのはともかく。


「とにかく頼んだわよ。部屋はひとつでいいけど、彼女と常に行動できるように手配お願いね」

「しかし、アナスタシア様はどうみても初等部……」

「なにかいったかしら?」


 にこにことする姫様には、誰も逆らえない。

 現に距離があったはずなのに、一瞬でミティアさんの首筋を撫でている。


「ひっ、そ、そのように手配させていただきます! く、詳しいことはあとで書面を持っていきますので!」

「ありがとう。もちろん、そちらにもメリットがあるようにしておくわ。だって私達……ねぇ?」

「はいぃぃぃ!!」


 意味深な姫様と、それに怯える学園長。

 なんだが深入りすると巻き込まれそうで怖い。


「さ、用事はこれでいいのかしら? いくわよ」

「は、はいっ!」


 しかしこれで学園に戻ってくるという目的は達成できた。

 あとは俺の身体のレイラと会って、男に戻るだけだ。




 ……そんな簡単にいけば、どれほど良かっただろう。

 その人物に見つかったのは、運が悪かったとしか言い表せない。


 そうして俺は迷惑王子に目をつけられ。

 あろうことか手の甲にキスをされ。

 身体の持ち主であるレイラとサラサに目撃されてしまった。


 サラサはゲラゲラと笑い転げていたが、もう深夜だということで物理的に眠らせ俺も寝る。

 姫様は棺桶なので、実に広々としたベッドだ。

 サラサ? もちろん床に転がしておきました。


次から学園編です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ