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お兄ちゃんのサポート

 


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「はは、そんなに気にしなくていいよ」


 アル兄は笑って許してくれるが、その首筋にはハッキリと跡が残っている。

 俺が、吸血鬼として咬みついた跡が。


「僕が吸血鬼にされるとか、そうなったら困るけど、大丈夫だよね?」

「安心して。咬まれただけなら問題ないわ」

「ほら、ね?」


 姫様が太鼓判を押し、アル兄もにこにこと笑顔を向けてくれる。

 それでも、俺が自制できずにアル兄の血を吸ってしまったことには変わりない。

 そしてその血は、とてつもなく美味しく感じられた。


「でも――」

「うん、僕は問題ないさ。先程はごめんね?」

「アル兄……」


 アル兄は優しく抱きしめながら、俺の頭を撫でてくれる。

 やはり家族で信用できるのはアル兄だけだ。

 変わらずにいてくれるアル兄は、エリュシーデ家に残った唯一の良心だ。

 それに比べて、他のふたりときたら。

 ……いや、そういえばここの女子ふたりにも問題があった。


「見せつけてくれるわね」

「あれはアレクにとっては兄なのよ。たとえ愛し合うふたりにしか見えなくても」

「まあ。でもこれでレイアの衝動は抑えられるわね。よく見たらお似合いよ」

「でもねー、アルベール様は既に婚約者がいるからねー」


 聞こえるように囃し立てる女子がうるさい。

 俺たちは気まずくなりながらも、抱き合った状態からそっと離れた。


「あら? もっと続けていいのよ?」

「そうそう。お気になさらずいちゃついてくださいな」

「いや、俺はそういうつもりじゃ……」


 そうだよね? とアル兄に同意を求めれば、何かやましいことでもあったかのように顔をそらされた。

 どうして。


「アル兄?」

「と、とりあえず。アレクはどうしてそうなったんだ? 僕が帰ってからのことを教えてほしいな」


 俺とアル兄は、屋敷にいた期間がズレている。

 まずは、俺の事情を知ってもらわなければならない。

 そこの女子ふたり。

 俺がアル兄に近づくたびキャーキャー言うのはやめて。




「だから、俺はどうしてもあの本が欲しいんだ。アル兄でなければ頼むことができないんだ」

「ごめんねアレク。僕があやしい本を持っていたせいで」

「違うよ。俺が勝手にやったことだ。アル兄は悪くない」


 あのときの、レイラと離れたくない想いは本物だ。

 まさかこんな展開になるとは思わなかったが、それに関してアル兄は無関係だ。


「とにかく。アル兄、どうしても俺は自分の身体に戻りたいんだ。あの本を持ってきてもらうことはできる?」

「あ、ああ。けど、次の外出はまだ先だよ。家まで戻るとなると、早くてもひと月後になりそうだ」


 アル兄の外出許可は、数日前に出ていたらしい。

 次は、またひと月後。

 つまり俺は、あとひと月レイラの身体で過ごすことを強制されたようなものだった。


「あとひと月か……うぅ」

「安心して。女の子のサポートはしてあげるから」

「そうだね。アレクにはわからないことばかりだろうから、レイラちゃんみたいに介錯してあげるよ!」


 サポートの内容が怖い。

 具体的なことを説明されると気が滅入るので、詳しくは聞かないけど。

 けど待って。


「レイラの介錯? それってまさか」

「わたしもはじめて……い、いや。レイラちゃんとの秘密だからやめとくね!」

「おい、まさか」

「…………かわいかったよ?」


 なんだか急に立ち眩みに襲われ、倒れかけたところをアル兄に支えられた。

 姫様が吸血姫なら、サラサは悪魔に違いない。

 しかもこの場で、俺の気持ちがわかるのはアル兄だけ。

 そんなアル兄は、俺を抱きかかえたまま囁いてくれる。


「疲れたよね? あとは僕に任せて、アレクはゆっくり休んでいいよ」


 あぁ、やっぱりアル兄は頼りになるなぁ。

 俺はアル兄の腕の中で、ゆっくりと意識を手放した。




 ◇◇◇




 アレクたちの、ひとつ上の学年。

 いつもと変わらぬ日常のはずが、ある来訪者がきてからはその話題で持ちきりだった。


「ねえ聞きました? アルベール様を訪ねてきた女性のことを」

「ええ。弟様の婚約者だとか。でも、それ以上に――」

「そうですわ! 側にいたあのお二人! それも従者のほう!」


 エリュシーデ家の巨乳好きは有名だ。

 長男に婚約者が集まったとき、その長男が「お前たち、自分の胸を見てみろ。周りと比べて自信のないやつは立ち去れ」といった話は、令嬢の中で最低の部類として出回っている。


 そして次男にあたるアルベールの場合も、最初はその性格に騙される令嬢が多発したが。

 視線から胸を見られていることは有名だった。


「あの従者はキケンですわね」

「ええ。もしアルベール様の婚約者である、あの方の耳に入りましたら」

「ええ。早急に手を――――」

「どうしました? そちらになに、か…………」


 令嬢たちの会話が途切れたのも、仕方のないことだろう。

 そこには、渦中の人となるアルベールとその女性が歩いていたのだから。

 歩いているだけなら問題なかった。

 そう。

 アルベールが、その胸の大きな従者を横抱きにして運んでいなければ。


「弟をお姫様抱っこする兄がいるのかしら?」

「アルベール様は、とくにアレクを気にかけてたの。それがレイラの身体なら、愛情もひと押しなんじゃない?」


 通り過ぎるとき、側に控えている女子の会話が流れてくる。

 そのふたりの胸元は寂しいので、おそらくは従者に対しての嫉妬だろう。


 人気者であるアルベールとその一行が通り過ぎたあと、学年がその話題で持ち切りになるのは自明の理だった。




 ◇◇◇




 穏やかな波に揺られるような心地よさに、少しずつ意識が覚醒してくる。

 薄く目を開けると、真上にはアル兄の顔があった。


「うーん……」

「目が覚めたかい?」

「ここはいったい……え!」


 なにかに支えられていると思えば、俺はアル兄に運ばれていた。

 それも、その男らしい腕で横抱きにされ。


「あ、えっ、ちょ」

「危ないから暴れないで」

「あ、うん……」


 この状態で騒ぐと、アル兄も無事ですまない。

 レイラの身体を傷つけるわけにはいかないし、今は我慢しないと。


「あらかわいい反応ね」

「おはよう、眠り姫のアレクちゃん」


 横のふたりがうるさいけど、これも我慢我慢。

 気を失った俺を運んでくれているのだから、感謝しないと。


「も、もう大丈夫だから降ろして」

「いいや。このまま寮まで運ぼう。ベッドに寝かせるまでは安心できない」

「でも」


 実に言いづらい。

 そう思ってくれるのは嬉しいけど、口ごもっていると姫様が代わりに指摘してくれた。


「貴方が運んでいるのは女の子よ? 女子寮に入ってくるのかしら?」

「アレクってば、女子寮にいるのよねー。アレクのくせに」


 ……俺とアル兄の間に、なんとも言えない沈黙が流れる。

 そして、無言のまま俺をゆっくりと降ろしてくれた。


「んっ、えっと。ありがと」

「あ、うん。その、ごめんね」


 弟として扱ってくれるのは嬉しいので、そんなに謝られると困る。

 どうやら俺になったレイラとも会っていないようなので、この際に協力してもらうのもアリかもしれない。


「あの、アル兄? 俺の身体になったレイラと会っていかない?」

「アレクの身体かい? そういえば入れ替わったと言っていたね」


 俺がこの学園に来てから、レイラとは別行動が多い。

 何度も気絶させてしまい申し訳ないが、今日の夜にでもレイラと親友のマルクスには事情を説明したい。

 そして、その機会は思ったより早く訪れたらしい。


「それはそうと、さっきからあそこに立っている男子もアレクの知り合いかい?」

「え?」


 アル兄の視線の先には、ずっとこちらを見つめて微動だにしない男子。

 マルクスが動かずに立っていた。

 いったいいつから?


「そういえばアルベール様とアレクが見つめ合っていたときからいたわね」

「レイラとそこの貴方が全く気づかないから、見ていて面白かったわ」


 つまり、兄にお姫様抱っこされていた場面を見られた?

 この状況でマルクスにカミングアウトするのは……うん。

 やめておこうかな?


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