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血を吸わせて

 

 返事は待てない。

 俺はマルクスの首筋に引き寄せられるように顔を近づける。

 そうしてあと一歩で咬みけるという距離になったとき、ガシッと肩を掴まれた。


「な、何を?」


 強い力で掴まれているため、レイラの身体じゃ振りほどこうにも振りほどけ無い。


「それはこっちのセリフだ。理由を聞かせてくれ」


 理由?

 そんなもの、血が吸いたいからに決まっている。

 俺は同性から・・・・血を吸うものだと刷り込まれており、頼めるのはコイツくらいだ。


「頼めるのは、お前くらいだからだ」

「そうか、わかった」


 マルクスの抵抗する力が抜ける。

 俺はそれを了承と捉え、彼のあらわになった首筋へと牙を立て――。


「だが断る」


 あっ、と思ったときには既に遅かった。

 彼が立ち上がると、もうレイラの身長じゃ届かない。

 背伸びして抱きつけば届きそうだが、マルクスは俺を気にもとめずにスタスタと歩いていってしまう。


「まっ――」

「そういうのは、隣りにいる男とやってくれ」


 隣?

 その言葉に意識を向ければ、気絶したままのアレクの身体があった。

 アレク……。

 彼も男性だ。中身がレイラだとしても、勝手知ったる自分の体。

 いくら血を吸っても文句はいわれないはず。


 だがなぜだろう。

 身体の奥深くから、彼を拒絶する気持ちがある。


「アレク、いやこれはレイラだ。レイラは女性、俺は男?」


 目の前にいるのは、気絶している男性。

 だが、レイラは女だ。

 異性から血を吸うことは、俺が女だと認めてしまって――。


「でもいいや。相手が俺なら、いくら血を吸っても問題ないはず」


 なにか忘れている気がする。

 しかしこの欲する衝動には抗えない。

 俺は男で、目の前の男性から血を吸うのは何もおかしくはない。

 だから。


「っ、いただきまーす」

「――どうやら、ギリギリ間に合ったようね」


 え?

 と思ったときには、首に強い衝撃を受け。

 俺の意識はだんだん遠のいていった。




 ◇◇◇




「ん、んぅ……」

「あら、目が覚めたのかしら」


 まだ働かない頭を横に向けると、そこには姫様の顔があった。

 どうやら俺は医務室に運ばれてしまったらしい。


「あなたは血の衝動に耐えられなかったのね」

「血の、衝動?」


 姫様いわく。

 闇魔法を使いすぎると、吸血鬼としての本能が疼いてしまうらしい。

 どうやら俺は、魔力を思いっきり込めすぎたせいで血を求めてしまったらしい。


「ごめんなさい、まだ闇魔法を制御できていないのね。あなたに早すぎたわ」

「でも、魔法自体は使えていたよな?」

「ええ。その後のことを覚えているかしら?」


 魔法を使った後のこと?

 的を粉々にして、その後は……。


「あっ」


 ようやく自分が何をしようとしたのか思い出した。

 あの後俺は、マルクスに血を吸わせろと迫り、断られ。

 男の・・、俺の身体なら吸い尽くして良いと――。


「あっ……あああっ!」

「どうやら、早めに血を摂取したほうがよさそうね」


 そんな姫様の言葉を聞きながら、俺は羞恥心に駆られながらも心のなかでマルクスとレイラに謝った。




「ということでサラサ。お前の血を吸わせてくれ」

「え? 嫌だけど」


 様子を見に来たサラサに頼むも、一刀両断される。

 それどころか、俺の行動に姫様も不満げな顔だ。


「あんなに男だと主張していたのに、サラサで妥協するのかしら? 同性ということは、貴女は女の子を認めるの?」

「え? 違うぞ。事情も知っていて、一番手頃なヤツだから」

「ちょっと。そんな都合の良い女みたいに言わないでくれる?」


 ここにレイラはいない。

 まだ事情を説明していない相手に頼むのは気が引けるし、マルクスとは気まずくて顔を合わせづらい。

 なので、頼める相手はサラサくらいしかいないのだけど。


「でも男が相手となると、あとは俺の身体のレイラくらいしか……」

「あら? レイラは女の子なのでしょ? その身体の持ち主は男なの?」


 姫様の手が、だんだんと俺の胸元に伸びてくる。

 自分を抱きしめるように腕でガードすると、その狙われた膨らみがふにゅんと形を変えたのを感じた。


「……違う」

「そうね。そんなものぶら下げた娘が、男のわけないもの」


 否定できないのがつらい。

 サラサにもジト目で見られ、顔をそらすことしかできない。


「ま、貴女に友達が少ないのはいいとしても、サラサでも良いわ」

「へ?」

「え?」


 あれだけ同性から血を吸えと言っていた姫様なのに、急にどうして?

 あ。

 もしかして、サラサは男だと――。


「おい」

「なんでもございません」


 彼女の一部を見つめていたら、いい笑顔で拳を掲げられた。

 ……サラサは男でも通用しそうだとは、思っていませんとも。


「貴女がサラサから血を吸うということは、女の子同士だと認めたということね。つまり、何の問題もないわ」

「は? どうしてそう――」

「吸えばわかるわよ? どうかしら」


 姫様はサラサの許可も得ず、その艶めかしい首筋を露出させる。


「ちょ、ちょっと」

「安心して。悪いようにはしないわ」


 そんな誘うようにお膳立てされると、収まったはずの衝動がまた疼いてくる。


「あっ……ああ」

「え、ちょっと。アレク? 落ち着いて、なにか怖いわよ?」


 肩を震わして怯えるサラサも、いつも以上に女らしい。

 いや、違う。

 体型だけ見れば、綺麗な顔をした男にも見えるので、同性の相手としては何も問題は――。


「――フン!」

「っ! あぶな!」


 近づいたところを、サラサの足蹴りで牽制された。

 表情はニコニコと笑っているが、どうしてだろう。

 目が据わっているように見える。


「あんたの考えていることが、ものすごーくよくわかるわ」

「そ、そんなわけないだろ」

「レイラちゃんの身体、表情がわかりやすいのよねー」


 棒読みでそう言われると、たしかにそのとおりと納得するしかない。

 レイラには、コロコロと表情が代わるという美点があった。

 隠すこともせず、こちらへ真っ直ぐに好意を伝えてくる姿に、俺は惹かれた。


「だとしても、俺には関係な――」

「胸みていうなこの牛女が」


 ピタ、と動きを止める。

 サラサの胸を見る。すとーん。

 自分の胸を見る。ぼんっ。


「…………ごめん」

「謝るなぁ!!」


 まだ暴れるサラサを見て、俺にもうひとりだけ頼れる男性がいたことを思い出した。

 思えば俺とレイラが入れ替わった原因もあの人の持ち物だ。

 家族ということで除外していたが、あの人なら血も提供してくれるはずだろう。


 会いに行こう、アル兄に。


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― 新着の感想 ―
[一言] 一番イージーモードなのは王子様だよね( ˘ω˘ )
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