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05 ダンジョン調査クエスト

 冒険者の頃、サポート専門であるジョブのせいで日々着実に成長するロミエットには追い付けずどんどん差が広がってゆくばかり、それなのにこのSランクに値する鑑定結果は、勇者であるロミエットのランクを優に越えていた。


 心当たりはあるとすれば最後に鑑定した十五の時、ロミエットが勇者となった忌々しき日の次の日である。


 この時は総合してDランク判定だったので、飛び級でBランクまで上昇したロミエットに血反吐出しながら追い付くために鍛え続けたものの、広がるだけの格差の前に屈して歩みを諦めたのだ。


 だがいつの間にか追い付いていた、それどころか追い抜かしていたのだった。


「いやいやぁ、期待を大幅に越えてくるなんてよぉ。そんなにウチを喜ばして何企んでんだこのこの! アッハッハ!」


 ギルドマスターはあくびをするかのように大きく口を開けて豪快に笑う。


 とはいえ、ここまで褒められてしまえば何も悪い気はしない、むしろ組合をまとめる者としての在りかたへの好感すらも抱いていた。


「まあ、どんな称号だろうが頂くだけじゃ強くなれんから別にいい。ところでだ、早速だが丁度良さそうな依頼を紹介くれないか」


「あいよ、こん中から選んでいいぜ。それまでチビとイチャコラしてるわ」


「違うよマスター。クエストの成果を報告するだけだよ~」


 アリスはギルドマスターの軽口を咎めながら身ぶり手振りを交えて調査の結果を報告した。

 勿論ジュリオの手助けされた件もまとめてだ。


 それを尻目に、ジュリオは依頼書の束を漁っている時に、ある1枚の紙に目がついた。

 その依頼内容は『マスク・ド・スパイス』と名乗る者の捕縛、こいつは一人で遊び歩いている女性に声をかけては甘いマスクで誘惑しようとするナンパ野郎、と注意書きが添えられてあった。


「な、なあマスター。こいつって……どんなヤツなんだ」


 ジュリオは目が泳ぎ声をごもらせながら問う。

 すると、ギルドマスターは単純にこの人物の知る限りの情報を語った。


「へぇこいつか、このクソ広い王都の深夜に出没する女たらしの変態男だぜ。しかも胸がデカい女ばかり狙ってる特殊性癖の野郎さ、それがどうかしたか?」


「そ……そうか。何でも無いんだ。知り合いか親戚に似ていたけど他人の空似だったよ……」


 ジュリオは誤魔化すように問いを終えるが、この人物は実は自分であったからだ。

 幼馴染の暴力によるストレス発散がてら好みの女性を誘っていた黒歴史がフラッシュバックする。


「変なの~。でもジュリさんこの人とバッタリ出会ったら意気投合しそうだよね~」


 悪意の無い純粋無垢な発言であったが、それがジュリオの闇に葬りたい記憶にグサグサ釘が刺されてゆく。

 そんな穴があったら入りたい気持ちを払拭したいがあまり、依頼書を適当に選んで一枚ギルドマスターへと差し出す。


「ああっと、これがいいなあうん。請けるクエストはこれにしてくれマスター」


 声の強弱が安定しないとは全く気に留めず、ギルドマスターはまじまじと見つめた後、今一度内容の程を確認する。


「ダンジョン調査かい? こりゃ比較的厳しいヤツだがいいのか、つってもジュリオのぶっ飛んだ能力じゃ余裕だろうけどよ」


 驚くような声で言われたので、その内容を目に通す。


 王都東の森に突如出現したダンジョンの調査、報酬は一階層につき三千モンずつプラスされる。

 それだけではあるが、当のダンジョンは新品同様手付かずのままで棲む魔物の種類さえ判明していない、とどのつまり未曾有の危険地帯に潜入する特攻隊となってもらうのだ。


「ねえねえジュリさん、私も一緒についていっていい~? 足引っ張らないように頑張るからさ~」


 アリスが同行の提案をしたが、その雰囲気はこれから魔物の蔓延る場所に赴くとは微塵も感じさせないピクニックのような気分であった。

 それでもジュリオはアリスの性格から本心を把握し、首を縦に振る。


「いいぞ、というか二人で向かってもいいんだな」


「冒険者同様、団体行動は推奨してるぜ。何てったって片方がやられてももう片方が帰ってこれりゃ黒字だからな」


「殺られる前提かい。縁起悪いこと言うの止めてくれ」


「でも私、索敵魔法使えるから大丈ブイなんよ。それにジュリさんと末長く過ごすためにコンビネーションを鍛えておきたいし~」


「お前と今後も過ごすだなんて誰も言ってないが……分かった、これからも一緒にいてやるよ」


「やったあ!」


 自分が根負けするよりもここでの無駄話で時間を潰す方を危惧し、腹違いの姉妹のような二人は目的地へと足早に向かって行った。



▽△▽



「案外近場だったな」


「まあね~。でもそのおかげで楽チンなんよ」


 鬱蒼とした森の中に、ぽっかりと巨人が大口開けたようなダンジョンの入り口を発見した。

 未調査につき立ち入り禁止の綺麗な看板が立て掛けており、魔物が地上にもれないように大岩で塞がれていると、最低限には整っているセキュリティだ。


「でもこれじゃ入れないぞ、この岩無理矢理破壊するしかなさそうだぞ」


「そう、イエス! 岩には岩をぶつけてぶっ壊しちゃうんよ~【魔法・岩石砲(ロックキャノン)】!」


 右掌を突きだし、亜空間から出現させたソフトボール大のサイズである丸岩を射出させる。


「とぼけた顔して強引だなお前、嫌いじゃないぞそんなとこ」


 入り口を塞ぐ岩は惜しくも半壊止まりで残っているが、Cランクと並ぶ魔法の威力に感嘆を送らずにはいられない。


「私もまだまだだね。早くジュリさんみたいな凄い魔法使いになりたいんよ~」


「俺って魔法使いじゃないけどな、それに俺の放つ魔法全部地味な演出になってしまうし」


「地味じゃなくて渋くてカッコいいよ~ジュリさんの魔法、さあ行こ行こ」


 積極的なアリス促され、そのまま未知のの空間へと潜入を開始した。



■■■



 二人は出現する魔物のメモを残しつつ順調に進んで行き、現在は第五層の中腹まで到達していた。

 光源はジュリオの光魔法で代用し、アリスが周囲五十メートルの生体反応を識別できる索敵魔法を片目に覆わせ、魔物のいるルートを通り抜けざるを得ない時には種類に応じて素通りする作戦で突き進んでゆく。


 地上を脅かす魔物であっても全部が全部無条件で襲いかかってくるわけではない。

 人が無意識の内に放つ敵意という気配で判断する魔物もいれば、目を合わせない限りはこちらの存在自体認知しない変わり種さえいた。


 今回の主旨は魔物討伐ではないので、極力無益な殺生と消耗は控えたいと予め方針を決めたのだ。


「無傷のままここまで来れたな。迷路じゃないし魔物もこっち見ただけで逃げ出すぐらい雑魚、楽に終われそうだな」


「そうだね、私でもちょちょいのちょいで倒せそうなのばっかりだったんよ~。初心者用のダンジョンって報告だけで済むね」


「初心者の冒険者か、いい響きだな。スタートラインを万全にするために最新部まで探索するか」


 狭く暗い中にも関わらす談笑している余裕が生まれていたが、アリスの索敵魔法のレーダーが鳩の鳴き声のような音を上げる。


「きたんよきたんよ~。魔物は三匹、どれも下級種のゴブリンみたいだよ」


「また雑魚か、本当ホワイトな職場だな」


 片を竦めて身体中の神経を集中させ、魔力の行使をするための状態に入る。


「あれ? 反応消えちゃった。ええっ!?」


 その時、急にアリスが立ち止まり、奇声に近い声を発した。

 あまりに豆鉄砲を不意打ちで食らったような表情だったので、思わずアリスの方へと向く。


「どうした、敵はいるのかいないのかどっちだ」


「三匹はいなくなっちゃったけど新しく一つ増えたんよ。でも反応が大きくて強い、そこの曲り角の先に上級種がいるよ! スタンバイして!」

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