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40 強者を真似る者

 舞い込んできた凶報に三人は虚を衝かれた表情と化す。


 人の密集する場所での報を伏せるのは、パニックが伝染するのを防ぐためなら英断である。


 だが男性の中で戦闘力の頂に君臨した者が襲撃され命を落としたとあれば、どんなルートにせよ早かれ遅かれ町全体に伝わってしまうのが道理であろう。


「ど、どうなっているのマスター!? その人を殺した人はどんな人達なの!」


 アリスは、不安がっているシェピアを抱きしめながら訊ねる。


「それを急ピッチで調査中だ。だが殺った奴が団体か単体かさえも判別しかねてる、何せ現場を見た奴の証言じゃタイマンだったとかぬかしてるんだからよ」


「だとしたら仮に一人でも相当な力がある危険人物じゃないか、調査なんてしたらどんだけ死体が増えるか分からないぞ」


「だから捜索中なんだぜ! 未然に防げなかったのは一生の不覚だが、せめてあんただけでも殺させねぇためによ」


「俺を殺させないだと……それはつまり……」


 ジュリオは嫌な考えが脳裏によぎったが、それを直接遮るように下の階からけたたましい音が響く。


「なあジュリオ、5秒だけ持たせてやる。奴の狙いはアンタだ、だから挑むか逃げるかさっさと決めな」


「マスター、まさか……!」


 瞬間、廊下への扉が前触れなく破壊され、木片が飛び散りながら何者かが乱入する。


 その者は丸腰でありながら、無気力かつまとわりつく口調で話す。


「見ぃつけた、たかが優勝したからって強いと思い上がっているごみくずがね」


「クソが! ウチのギルド自慢のメンバーには指一本触れさせねぇ!」


 ガーベルは男の発言からジュリオを狙う敵だと認識し、刃渡りが包丁程度の短剣を握りしめ、瞬時に仕留めるために振りかかる。


 が、差し止めたと思った直後、男がガーベルの得物と全く同じ形をした光の剣に、短剣が呆気なく弾かれる。


「【スキル・パワーアップコピー(上方模倣)】君の全身全霊の

攻撃なんて、ボクにとっては糧でしかないね」


「が……はっ!」


 突然、ガーベルの脇腹から腹部にかけて赤黒い線が走り、その部分から血が飛沫となって部屋に散らかってゆく。

 光の短剣は霞みとなって消え、逆恨み男の発動したコピーの能力は終了する。


「ぐえ……っ。なんつうか、ジョブってのはとんだバケモンを生み出せるみてえだな……へへっ」


 ガーベルは相手の打算通りに踊らされてしまったと思いきや、そんな切羽詰まった状況の中でもニタリと笑っていた。


「バカなの君、もう負けて死ぬというのにどうしてニヤついているんだい?」


「ジュリオが最善の選択をとったからさ。アッハッハ、なけなしの時間稼ぎも、あのスケコマシ野郎もどきに一役買えりゃ本望だぜ……さあどうする、虫の息なウチにこのままチンタラ構うのかい?」


 男は聞き流して辺りを見回すが、ジュリオや他二名の少女の姿が忽然と消えている。

 とはいえ野外へと繋がる窓が乱暴に開けられているため、外へと逃走したと見当がつく。


「命拾いしたね君、順序からして準決勝敗退者の始末は後だからさ。いいよ、その口車に乗ってあげる。ジュリオってのが臆病者だろうが神だろうがどうせボクのスキルに泣きながら死ぬだけだからね」


 出血多量で意識が崩れつつあるガーベルへ吐き捨て、男はすばしっこい動きで窓から飛び降りた。


「どうか生きててくれ、ジュリオ。奴のスキルは無敵だ、こっちの技を倍の力で跳ね返しちまう、あの爆弾魔と同類だのと考えりゃ、百戦錬磨のアンタでさえ死んじまうぜ……」


 這う力すらも失いつつあっていたが、ギルドマスターとしての使命感から身体を起こそうとすると、服が軽くなっていると気づく。


 辛うじて動ける手でまさぐってみたら、常備しているいくつかの消耗品が無くなっていた。


「ジュリオの野郎、手癖が悪すぎるっつーの。犯人取っつかまえたら全額弁償だぜ……へへ……ぐっ……」


 それっきり、ガーベルは苦痛に耐えかねて暫し意識を失った。



△▽△



 男は軽々しく飛び降りた寸前、ジュリオが己の命可愛さに背を向けたのではないと思い知る。


「今だ【魔法・風旋(ウィンドスパイラル)】」


 ジュリオは相手の脚が地を離れた隙を狙うがため、体勢を崩せる風の渦を真下から放っていたのだ。


「それでボクを欺いたつもりかい? 残念ながら通用しないんだよな【スキル・パワーアップコピー(上方模倣)】」


 男の身体が淡い緑の光に包まれた瞬間、掌からジュリオの発動した風の渦そのものを放出する。


 だが、何よりも目を見張ったものは、ジュリオの渾身を込めた風魔法よりも威力が一回り勝っていたところである。


「ただの猿真似じゃないんだなあんた。生きてる内に忠告するが、俺はもちろん、アリスとシェピアに手を出してみろ、あんたに氷で研いだツララの牙が剥くからな」


 ジュリオは男の喉元を指差して宣言する。

 アリス達とは一旦離れて単独で対処するつもりではあったのだ。

 男は嘲笑しながら言葉を返す。


「いいよいいよ、どうせ君から殺す予定だからさ。でも自慢じゃないけどボク自体も強いんだ、ボーッとしてるだけで安全だって思わないでね」


「あっそう。その言葉、最期までよく覚えておけ」


 口上を述べた同タイミングで、男はいだてん走りで接近し、顎をめがけて拳を振るおうとする。


「ご託はいいからより良き社会のために早く死んじゃえよ、ボクは君みたいな傲慢なだけの人間が大嫌いなんだからさ」


「俺も同感だ、あんたを生かして百害あって一利ない。これでも食ってろ!」


「無駄だよ無駄、これもコピーして……!? けほっけほっ!」


 男は余裕しゃくしゃくな態度から一転して咳き込んでしまう。


 何故ならば、周囲には目眩ましには十分な黒煙が広がり、肺を脅かすその煙が口内に侵入していたためである。


「攻撃でなければコピーされても無問題、ジュリオってのは少しは頭が回るみたいだね。だけどこんな小細工で逃げ切れると侮っちゃいけないね」


 二言呟き、煙を盾にどこかへ行方を眩ましたジュリオを追跡する。

 それに目星はついていた、黒煙は墨のような着色素材で作られていたようで、袋小路に続く足跡がくっきりと残っているからだ。


 そうして悠然と歩きながら曲がると、案の定ジュリオが眉間にしわを寄せながら待ち構えていた。


「やっぱりいた。散々逃げ回った君の死に場所にぴったりだね」


「逃げてはない、策を張っていたのさ【魔法・氷雨々(ツララ)】」


 ジュリオは勝ち誇りながら吼え、得意の氷魔法を発動させる。


 鋭利な形状で殺傷力に重点を置いた威圧感あふれるツララであったが、それでも男にとってはやり返すための材料でしかなく、敵対者への怖れの感情が欠落していると言っても過言ではなかった。


「これが策だって? 間抜けをさらしといて笑わせないでくれよ【スキル・パワーアップコピー(上方模倣)】」


 絶対の自信を有するスキルを用い、巨大な氷を出現させて迎え撃つ。


 単純計算で男の方が大きさも体積も倍であるため、互いが正面衝突すれば確実にジュリオの氷が破壊されるだろう。


「どうしたのさ、学ばないなんて君らしくないね……お?」


 慢心していた時、自分の足元がのりで貼られたようになっていると察知する。

 違和感の正体を確認するため目線を下げると、隅々まで伸びた氷に地面が覆われ、両足を包んでいたのだ。


「【魔法・凝結転化(アイスイリュージョン)】に嵌まったな。退く時マスターからくすねといた酒で製造された氷さ」


 またしてもコピーされないであろう手段で欺いたジュリオ。


 酒豪であるガーベルにはいくつもの酒瓶を隠し持っていたのを利用し、ミリの罪悪感を感じず拝借してはそこかしこにばらまいていたのだ。


「氷がせりあがっていく……? う、動けない?」


「そのまま侵食する氷に埋もれろ、そしてキンキンに冷えた空間の中で寝ているんだな」


 ジュリオは明日の大会を水の泡にされた恨みだけを思いながら拳を握りしめた。

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