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04 ギルド入団

「ん……いい夢だったぁ。あれ、私寝ちゃってた?」


 アリスは寝ぼけ眼のままキョロキョロ辺りを見回したが、最初に目についたのが自分をお姫様抱っこ(横抱き)で抱きかかえているジュリオの顔であった。


「おはよ、もう王都は目の前だぞ」


「うわぁ! 迷惑かけちゃってごめんなんよ! 私降りるから~!」


 アリスは綿毛のように軽やかな動作で着地する。

 そんな動きに、心の中で感嘆を送りながら小声で呟く。


「王都か、出来ればワガママのあいつとは二度と出会いたくないもんだな」


 別れたばかりの幼馴染のニヤケ面が脳裏に浮かび、アリスから顔を逸らしつつ自然体を保とうと必死であった。


「どうしたのジュリさん?」


「こっちの話だ、このまま案内してくれ」


 こうして二人は王都の門をくぐり、夕暮れ時なのに昼間のような人混みを通り抜けていった。



△▽△



 石造りの建物が建ち並ぶ王都の大通りから逸れた場所に、地下へと続く短めの階段がポツリとある。


「ここだよ。ちょっとだけ行くのに不便だけど、私いっつもワクワクするんよ~」


「こりゃ目立たない訳だ。今まで空き家だと思ってたがアジトになってたとはな。着いたら挨拶だけしとけばいいか」


「えっと、挨拶の後は能力鑑定があるんだけどね、でも大体は冒険者ギルドと同じだからゆるーく行っていいんよ~」


「へえ、鑑定されるのなんて久しぶりだ」


 先導されるがまま薄暗い階段を降りて進み、アリスは奥にあった木製の扉をノックしてから開いた。

 こんな上品な仕草に育ちの良さを感じたが、すぐに続いてゆく。


 部屋の中は誰もいなかったが、中央に置かれている単独作業用のデスクに酒の空き瓶やクエストの貼り紙でこぢんまりとしており、想像していたイメージ通りの裏世界っぷりであった。


「ヘイマスター、ただいまなんよ~。今日は新人さんをスカウトしたから来て来て~」


「おい待て、直にギルドマスターに会うのかよ」


「うん。だって基本はマスターが窓口やってるんよ~。人が足りなくて猫の手も借りたいって愚痴こぼしてたんよ」


 馴れ馴れしくギルドマスターの名を呼んだアリスに対し、雪解け水のような冷や汗を覚えたジュリオ。


 程なくして、強いアルコールの匂いと「おえー」との唸り声が聞こえ、ジュリオは訝しげな目をしながら直立不動になる。


「おう、帰ってたんかチビ(アリス)~。うげぇ、頭痛ぇ……」


 廊下の奥からふらふらとやってきた者は、サバサバした相貌で短髪を結わいているガサツそうな女性であった。

 アリスは鼻をつまみながら注意する。


「もう、マスターってばまた昼間からお酒飲んだんでしょ~。こんなの体に悪いからメッだよ」


「ちょぴっとぐれぇいいじゃねぇか、ウチにとって酒は命なんだからよ」


 上下関係を感じさせない掛け合いに出鼻を挫かれ無言になっていたジュリオだったが、気を取り直して挨拶を交わす。


「あんたがマスターなんだろ、俺はこのギルドへ入団を希望しているジュリオ・フレズベルクだ」


 執事時代に身体に染み込ませた礼法を用い、己の姓名を語りながら追放の刻印を晒す。

 だがギルドマスターの目線はジュリオの面に向かっていた。


「アッハハハ! オメェすんげえ可愛ねえ! 女装したらすっげえ様になりそうなナリじゃねえか」


「マスター、ジュリさんこう見えてちゃんと女の人だよ」


「慣れてるから構わん。事前の連絡無しに来訪してすまんがなるべく一日でも早く収入を得たい」


 ジュリオはここへ到来した目的を切実に話した。

 冒険者のギルドマスターは極めて厳格であるために裏冒険者ギルドマスターも似たような者だと構えていたが、大らかな人物であるとの印象へ塗りかわっていた。


「こりゃ失礼、そんじゃこの誓約書に一筆サインを描いてくれ。これだけでしゅーりょ、オメェさんもウチらの仲間だぜ」


 そう言って無造作に置いてあった白紙の用紙を裏返し、二行の文章とその下にNAMEと描いてある表側を見せる。


 内容はとてもシンプル、自分の責任は自分で取れと達筆な文字で書いてあっただけだった。


 しかしジュリオとて伊達に冒険者を続けていない、どこか予想だにしない箇所に小さな文字が隠されていないか警戒したが、本当にこれだけしか書いてなかったことに拍子抜けしていた。


「すんなり入れそうだけど騙されてないよなこれ、なあアリスが入団した時もこんなんだったのか?」


「そうなんよ。来るもの拒まず去るもの追わずだからね~、はいこれペンだよ」


 アリスの一声に押され、肩の力を抜いて自分の名を書き添える。


「オッケー! 次のステップなんだがオメェさんの能力を鑑定するためにこの水晶玉に魔力を注いで欲しい。冒険者ギルドでよく使ってる丈夫なアレさ、やってみな」


「何年ぶりだったかな、これやるのは」


 人の頭より一回り大きい透明な水晶玉を、重たそうに持ち上げた。

 こんなに大きければさぞかし苦労するだろうと感じ、記憶を探りながら両手を置いて体内に潜在している魔力を解放する。


 しかしウンともスンとも反応しない。


「あれ、何も出ないな、それよりヒビが入って……やばっ」


 パリッ


 何故か突然水晶玉は一瞬で粉になり、キラキラ光る砂粒と化した。


「あん!? オメェどうやったんだこれ!」


「いや、普通に置いただけだ。頼むから弁償なら後でにしてくれ」


 ギルドマスターは酔いが回ってるせいで語気を荒げ、揉めそうな雰囲気となってしまったが、これにアリスは首を傾けて指摘する。


「ねえマスター、ジュリさんってかなり強いんだよ、こんな安物じゃなくてちゃんとした水晶玉で鑑定したら~?」


「そうなんか? 悪い悪い、んじゃ改めてホレ、こっちは絶対壊れないから好きに魔力を注いでくれ」


 手乗りサイズしかない超小型の水晶玉を引き出しから取り出した。

 小さいながらも先程の球体よりも透き通っているために高級感を見出だしながら両手をかざす。


「ま、まあ次こそしゃんとやるぞ、どうか変な結果が出ませんように」


 平穏な終幕を念じながら慎重に魔力を注ぎこむ。


 その甲斐あって水晶玉が淡い光を放ち、空中に文字の羅列が浮かび上がった。


「はわわぁ! 凄いのがいっぱいだ~!」


「うえぇ! おいおいおいなんだこのバカげた能力は!?」


 それはアリスのみならず、数々の強者を鑑定した経験のあるギルドマスターですら驚愕する全容であった。

 マスターは震える声色で能力を読み上げる。


「身体能力Sランク、魔力Sランクプラス、敏捷性Aランクダブルプラス――総合してSランクの冒険者に匹敵してるぞオメェ! どうしてこんな頭可笑しい能力持ってんだ! テキトーに入団させたの申し訳無い気分だぞこれ!」


「すごいよすごいんよ~! すごすぎてすごすごなんよ~」


 アリスは語彙力が消え失せそこかしこをピョンピョン跳ね回り、酔いが覚めたマスターは興奮のあまりジュリオの肩をつかんではグラングラン揺らしている。


「いや、確かに俺は勇者と冒険者してたからそれなりに強さに自身あったぞ。だけどこんなになってたのは流石に知らん、知らないんだ」


 それは、冷静で思慮深いジュリオが平静を失う程の真実であった。


 そしてこの事実はジュリオの喪失していた自尊心に光をもたらした。

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