03 裏の冒険者ギルド
「じょ、冗談なんよ~、えへへ~。本気にしちゃった~?」
自分のノリに対してどぎまぎした反応をしたために即訂正するが、それが逆にジュリオの心に突き刺さってしまっていた。
「冗談、か……」
「わわわ、ごめんよ~。そんな難しい顔しないで~」
「いや、構わん。ただの個人的な問題だからな」
「ほっ……だけどさっきは本当にありがと~。私は『魔法使い』のアリス。ちょっとしたお仕事でここに来ていたけど、うっかりしくじっちゃってピンチだったんよ~」
そう自己紹介した女の子は、ぼんやりしてそうな十二才前後の見た目に似合わず丁寧にお辞儀する。
そんな第一印象に好感を抱きながら、ジュリオは「仕事」のワードに対して問う。
「俺はジュリオ。あんたはこんなちっこいのにしっかりしてて偉いな。この仕事とやらは冒険者か?」
ジュリオはあえて冒険者と言ったが、それは現在のご時世で最も活躍する職種であるからだ。
特にこのような山の奥地で仕事の最中であるならば確定だと思っていた。
だがアリスは、首を振りながら真相を語る。
「ちょっと違うんだよね~ジュリさん。冒険者とは似ているようでちょっと違う裏冒険者ギルドなんよ、実は私ここらの調査のお仕事をしてたんよ」
裏冒険者ギルド、ジュリオは冒険者については熟知しているが裏までは噂程度にしか聞いた事はなかった。
冒険者が魔物退治の専門家だとしたら、裏冒険者は冒険者を快適に冒険させるための専門家だ。
その実態は汚れ仕事を中心とした極めて危険な内容であり、尚且つ構成するメンバーもワケアリが殆どなために表立っての行動はしない、だから冒険者と違い滅多に賞賛されないし目立たない。
それでも多大なる功績により冒険者ギルドから公認に活動を認められている、だからこのような組合体制でも運営出来ているのだ。
このアリスと名乗った女の子にもきっと触れてはいけない過去があるだろうと瞬時に察した。
「なるほど、詮索しないが仕事の邪魔してしまったならすまんかった」
「いいってもんよ~。邪魔どころか助けてもらえたし、感謝感激雨ふらしなんよ~」
何かズレた物言いのアリスに苦笑いを浮かべたが、すぐに話題を転換する。
「単刀直入に聞くが、そのお仕事ってやつ、俺にも出来るのか」
ジュリオは言葉を濁していたが、つまり裏冒険者ギルドの入団の希望である。
元々稼ぐための仕事先を探していた真っ最中である、この女の子との出会いはむしろ自分にとってのチャンスと睨んだのだ。
「えええ!? ダメだよお姉さん。だってお姉さんなら普通の冒険者でいっぱい稼げるはずだよ。AランクどころかSランクまで行けちゃうのに何で!?」
面食らって否を示すアリスだったが、ジュリオは躊躇いなく追放の烙印を見せる。
「これがその理由だ。俺だって元冒険者なんだが訳あってこうなっちまってね、稼げるならばダーティーなもんだろうが上等だから口添えできないかな?」
ジュリオは軽い口振りでありながらもその眼は熱意が宿っていた。
そもそも執事を演じてた頃こそ物腰丁寧に振る舞っていたが、真面目なんて柄じゃないのが本性である。
更に相手が年下であるのが相乗してどうにも軽いノリでなくてはいられなくなっていた。
「うーん。受かるかどうかはマスターのご機嫌次第だけど、きっと大丈夫なんよ。それに助けてもらった恩返しもしたいし、案内してあげるんよ~」
アリスはニコリと微笑み、誰かの筆跡で様々な記号が追加で描かれている地図を片手に先導した。
そんな冒険者時代の時とは違う丁重な扱いに、お礼を言わずにはいられなくなった。
「おお、すまんな。今後もお前と一緒なだけで心強いよ」
「ひゃあ! お姉さん、平気でこんなセリフ言えるなんてずるいよ……」
「おっと、ずるい事しちゃったのか、アリス?」
「トドメに名前呼びなんて反則だよ~!」
女性であるはずなのに男性的な美しさの差異により、アリスは一気に陥落してしまい赤くなった顔を地図で隠していた。
「おいおい、そんなお面みたいにしちゃ前も地図も見えないだろ。ここら梅雨明けのせいでぬかるんでいるしよ」
呆れ果てて、ポンポンと小さな頭をさすったが、意図したか否かアリスの乙女心を隅までくすぐらせた。
「ぴぃ! ダメ、お手てで触っちゃダメぇ……! 刺激が強すぎるんよ~」
「あん? 女同士なんだし恥ずかしがることは無いだろう」
「そういう問題じゃないよ。ぷしゅぅぅぅ……」
「おいどうした、って気絶してんなこれ」
完全にノックアウトされ、蒸気を放出しながらジュリオにもたれ掛かってしまった。
とは言え、外部からの衝撃による気絶ではないので、毛ほども気にせずウブなお嬢さんを横抱きの姿勢で抱える。
「意外と重いな。ダボっとしてる服の内はかなりの肉つきなのかお前。――ムチってしてるのは好みだけどさ。あいつなんかと違って」
そう呟いたが、当然返す者はいるはずもなく、それを分かった上でボソリと本音を喋ったのだ。
そして、握っていた地図をアリスの腹部に設置し、もう帰るまいと決めていた王都への帰路についた。
その道中、すれ違う者は皆ロマンチックな光景に黄色い歓声を送っていたが、本人は情欲に抗えず、アリスのとある部位に夢中で気づかなかったのは言うまでも無かった。
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