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アースクロウ  作者:
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7. 選択

 琴は「昼食の後でまたお話ししましょう。13時頃に演習場の奥の建物の2階の部屋で。会長室と書いてありますから、そこに来ていただければ」と言い残して立ち去った。3人は予定通り食堂へ歩き出した。


「学生会か」

「不安? 私やケイがいるのに」

「2人を見てると自分の力のなさがよくわかるよ」

「そういえばルヴィって何の魔術使うんだ?」

「なにも」

「なにも!?」


 ルヴィリアの回答に驚いた天音は、その場で足を止めた。それに気が付いたケイとルヴィリアも足を止める。


「もしかして、その、言いにくかったらいいんだけれど……親を戦争で亡くしたから、教えてもらえなかったとか」


 天音はごにょごにょと、両手の指を組み合わせて、気まずそうにしながら聞く。


「そうでもないんだよな。俺、先祖返り的に魔術師になったみたいでさ。だから詳しいことがわかんなくて」

「先祖返り? 確かにそういう事例もあると聞いたことがあるわ。その場合、協会では血筋を遡って、魔術を特定し、魔術を復活させるために力を尽くすわ。あ、でもルヴィが協会の魔術師でないとしたら……」

「天音、悪い癖だよ。また考え込んでる」

「あっ、ごめんなさい。ありがとう」


 天音はケイの指摘に感謝の意を表した後、手をパンっと叩いて、ルヴィリアを見た。


「事情はわかったわ。突然聞いてごめんなさい。これは、あまり学生同士で聞くべきことじゃないと思うけど、貴方は協会の魔術師?答えによって態度を変えるなんてことはないわ。私たちは魔術師の世界の役目を抜きにして、この短時間で親しくなれたのだから」


 天音の気遣いが込められた言葉に、ケイは「これが副会長になる人の在り方か」と呟き、感心している。


「俺は協会に所属していないし、他の勢力にも属していない。……この先どこかに所属するとしても慎重に考えたいと思う。俺は自分の血ではなく、心に従いたい」

「そう、わかったわ。ありがとう。さ、早く食堂に向かいましょう」

「そうだな、オレ、空腹で空腹で……」


 3人が講義棟を抜けて食堂に着くと、そこは学生と教員で賑わっていた。食堂は券売機で食券を買って、食事を受け取る方式になっている。


 ルヴィリアは、メニューの多さに驚いた。世界中の料理が並んでいる。


「すごいな」

「今や魔術師は地球の様々な地域に住んでいるもの。きっと、そういう状況を反映しているのよ。それにここは4カ国と直接接続してるしね」

「接続?」

「貴方も通って来たでしょう、門。あれよ。ルヴィリアはどの門を通ってきたの?」

「千代門だ」

「なら一番大きい門ね」


 食券を買いながら会話を進める。校内では現金ではなく、学生証が通貨代わりとなって決済される。あらかじめ入金した金額から引き落とされていく。


「?小さかったぞ」

「ああ、見た目じゃなくて役割の大きさのことだよ」


 ケイは迷うことなくカレーを選択した。天音は少し迷った後、わかめうどんを購入し、券を受け取っている。


「ざっくり言えば門っていうのは柱で、宙にこの空間を浮かせているのよ。結界魔術で領域を指定したものを、仮想魔術で世界中の各地点と繋がっているものとする。複数の魔術師で構築した大規模魔術の結晶なのよ、ここは」

「な、なるほど」


 ルヴィリアは天音の説明を聞きつつ、食券の購入に時間をかけていた。迷っているところで小難しい説明を受けたために、さらに難航している。


「そういや天音は、副魔術が仮想なんだっけ」

「ええ、流石にこういう真似は出来ないけどね」


 ケイと天音の会話に耳を傾けながら、昼食を迷っていると、突然何者かの手によってオムライスが選択された。咄嗟にその手の主を確認しようと、ルヴィリアが顔を向けると、そこにはマリが立っていた。


「随分迷っていたようなので、少しばかりお力添えをと」


 マリはそう言って笑って見せた。ルヴィリアは驚きながらも、その選択に納得し、食券を手にした。すると隣にいた天音が眉をひそめた。


「貴方、ルヴィの知り合いなの?」

「ええ、朝、電車が一緒になったんです」

「今朝、初めて会ったの?」


 今度はルヴィリアに問いかける。


「ああ」

「……さっき仲良くなったばかりの私が言うのはお門違いかもしれないけど、互いをよく知った友人でもないのに、無断で、突然ボタンを押すのはどうなの?ルヴィは真剣に迷っていたの、助言ならまだしも─」

「でも、ルヴィさんは納得しているのでは?」

「あぁ、そうだな」


 その反応に天音は、ややこしくするな、とルヴィリアを軽くつつく。


「……とはいえ、人がお金を払って迷ってたのよ?それを勝手に押すなんて。万が一、食べられないものだったらどうしていたの?」

「心配不要です。私はルヴィさんをよく知っていますから」

「!? どういうこと?ルヴィ」

「さ、さぁ……どこかで会ったことあったっけ?」


 マリは、ルヴィリアの問い掛けにふふふと笑って返すのみで、何も言わない。


「ルヴィ? こういうことは早めに解決したほうがいいと思うぞ」

「こういうことってどういうことだ。本当に何も知らないんだけど……」


 ケイは心配そうにルヴィリアを見つめ、ルヴィリアは頭を抱えている。天音とマリは未だに券売機の前で火花を散らしていたが、他の人の邪魔になっていると気が付いたケイが移動を促した。その流れで、各自昼食を受け取って、3人は同じテーブルに着いた。そして少し遅れて、オムライスを持ったマリが同じテーブルに座った。


「なんであんたも─」

「なんでと聞かれても……友人と食事をとるのに理由が必要ですか?」


 二人の様子をみて、ケイとルヴィリアは「致命的に相性が悪いんだな」と小声で話している。


「そういえば名前を聞いてなかったわね」

「マリ・グロウフォールです」

「マリ・グロウフォール!? それって」


 天音はその名前に驚いて、持ち上げていたうどんの麺を器の中に落として、戻してしまった。


「はい、光栄なことにあのマリ・グロウフォールと同じ名前です」

「でも、グロウフォール家って継承がうまくいかず、魔術が使えない家になって……」


 ケイがカレーを口に運びながら聞く。


「ルヴィさんと同じ、先祖返りですよ。ただ、グロウフォール家はとっくに魔術の世界からは離れていましたから、入学を機に魔術に触れることになりました」

「ふーん……」


 天音は未だに怪訝な顔をしたままうどんをすすっている。


「で、マリさん。ルヴィと過去に何かあったのかな」

「ルヴィさんが知っているんじゃないですか?それとケイさん、私のことはマリで良いですよ」

「わかった、マリ。それでルヴィ、どうなんだ?」

「だから俺はなにも……」


 ルヴィリアはいくら考えても今朝のことしか思い出せず、ゆっくりとオムライスを食べ進めている。天音はかなり食べ進めていたようで、ルヴィリアに、「それじゃ間に合わなくなるわよ」と言った。


「とんだ不思議ちゃんだね、ルヴィ」

「この先もこの調子で、2人の仲が改善されないと胃痛持ちになりそうだ」

「ははっ、頑張ってね」

「ケイも協力しろよ」


 天音とマリに聞こえないよう、小さな声で会話する。


 しばらくすると、全員食べ終わったようで、食器を片して食堂を出た。時刻は12時45分。予定の時刻よりは早いものの、学生会の建物の周りを見学するために出発することにした。


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