転移
「ん・・・・」
失っていた意識を徐々に取り戻す。
そこは森の中に広く拓かれた草原のようだった。
現代の日本ではもうこんな自然豊かな風景など見たことが無かった。
陽の光が心地よい、風が気持ちいい、空気が美味しい。
17年にも及ぶ独房生活で、感じられなかった感覚に、思わず笑みがこぼれる。
どうやら、無事に異世界に着いたらしい。
『ようこそ、アライ・ベリタス・ユウさん』
「うわ!」
急に目の前にメッセージボードが現れた上に、頭の中に声が響いた。
これがよくRPGであったステータスメッセージってやつか。
しかし、アライ・ベリタス・ユウって・・・。
ベリタスがミドルネームみたいになっているな。
もちろん、前世で自分から自分のことを「ベリタス様」などと呼んだことはない。
俺が修行で居ない3年間に、いつの間にか「ベリタス様」とまつりあげられていたようだ。
その名前を、あの面倒くさがりの神様が適当に勝手に入力したんだろうなぁ。
その後、ステータスメッセージに続きは無かった。
「おーい」と呼んでも出てこない。
この世界において何か特別なことがあった時に、向こうから一方的に出てくる仕組みらしい。
そう思うと、あまりにも不親切だな。
俺はこの世界のことを何も知らない。
チュートリアル的なもので説明してくれたり、こっちの神が出てきて導いてくれたり、なんてことを期待していたが、そんなことも無さそうだ。
きっと、本当はあの神様が全部説明しなくてはならなかったんだろうけれど、それを端折りやがったな・・・。
ふと、視界の端に、明らかにメニューを開くためのアイコンらしきものが浮かんでいることに気づいた。
頭の中でそれを開いてみるよう念じてみる。
― ステータス ―
アライ・ベリタス・ユウ(25)
人間族 男
レベル:1
ジョブ:教祖(Lv 1)
HP:10
MP:10
攻撃力:1
防御力:1
魔力(無):1
素早さ:1
器用さ:1
・・・え?
俺、弱すぎない?
ステータスの横に表示されている顔写真は、紛れもなく25歳ごろの俺の写真だ。
そう言えば、身体の感覚も当時のそれに戻っているし、無意識の内に一人称や話し方も昔のものに戻っている。
しかし、いくらなんでもこのステータスは弱すぎるだろ!
いや、そういや神様が、「この世界ではジョブが重要」みたいなことを言ってたな。
なら、このジョブ「教祖」が最強ならそれでなんとかなるはずだ。
俺はまた頭で念じてステータスボードの「教祖」の欄の説明を読もうとする。
『教祖:信者の数をJPに変換。レベルを上げることで全ステータスが上がる。信者の数だけ強くなる。
現在の信者数:0 』
現在の信者数は0になっている。
ということは、前世での信者数はカウントに入らないらしい。
ならば、この世界で信者を1から作っていかない限り、俺はずっとこのステータスでやっていかなくてはならない。
あれ?もしかしてこれ、詰んだんじゃないか・・・?
俺は人生で初めて神様を恨んだ。