ジョブレス
「そうなんだ。実は、俺たちは別の国から来てね、アルビオンについて知らないことも多いんだ。色々と教えてくれないかな?」
怪しまれないように話そうとしすぎて、逆に胡散臭い話し方になっている感も否めないのだが、ここは気にしない。
「どこから来たの?」
「えぇっと・・・ヤマタ、だよ」
さっきの少年の言葉から、適当に答える。
「そうなんだ!ねぇねぇ、ヤマタってどんな所なの!?」
子ども独特の好奇心からか、少年はキラキラとした笑顔で聞いてくる。
後ろでもラムが何やら質問したそうに騒いでいるが、ルカが口を塞いでくれている。
グッジョブ。
「あぁ、それはまたいつか話してあげるよ。けど、今はアルビオンについて、教えてくれないかな?」
「そっか。じゃあ約束ね。とりあえず、話すならうちのテントに来なよ!」
そう言って少年は手招きしてテントの方へと振り返る。
「あ、でも・・・」
「あ、そっか。ヤマタから来たから、もしかしてアルビオンのお金は持ってない?うーん、ヤマタのお金をもらっても、僕じゃ両替もできないし・・・、うん!とりあえず今日はお金は良いや!入って!」
・・・あら。
なんて良い子。
こんな善良な少年に、嘘をついてしまった自分が情けなく思えてきた。
「罪悪感を覚えるような行動は慎みなさい」と教えていた自分の教えもまだまだ体現できない未熟さを、改めて感じた。
*
テントの中は殺風景ながらも小綺麗にしてあって、使う人に少しでも嫌な気持ちをさせまいとする少年の心遣いが見て取れた。
中の物も全て手作りらしく、これだけの物をこの少年が一人で拵えるのは、大変だったろうと思う。
「すごいね。良いテントだ。君が一人で作ったのかい?」
「え!ま、まぁね」
何やらマズいことを聞いてしまったのか、少年はオドオドと答えた。
「でも、あれだよ、僕はこうして一人で居るし、門の外に居るけど、ジョブレスじゃないから安心してくれよな!」
そう言う少年の笑顔は引きつっていて、その言葉が嘘なんだろうことは何となく知れてくる。
「ジョブレス?」
聞きなれない単語を、とりあえず聞き返してみる。
「え?もしかして、ヤマタにはジョブレスの人は居ないの?」
「え、い、いや、居る(と思う)けどさ・・・」
そう濁した俺の言葉に、少年は目を輝かせて、
「もしかして!ヤマタでは、ジョブレスでも普通に街の中で暮らせるの!?」
と、聞いた。
俺は、自分の心がさっと暗くなっていくのを感じた。
そうか。
こんな年端もいかない少年が、一人で、自分でテントや寝具を手作りして、宿貸しをやって生活をしているのは、何も望んでこうしているわけではないのか。
ジョブレス、という言葉から察するに、少年のジョブが『なし』だったことを指しているのだろう。
そしてどうやらこのアルビオンという国では、ジョブを持たない人間は、街の中へは入れてはもらえないらしい。
こんな小さな少年でも、だ。
「良いな良いな!ねぇお兄さん!僕もいつかヤマタへ連れて行ってよ!」
少年の顔は、今までに増して一段と輝いている。
俺は、
「あぁ、分かったよ」
と、思わずまた嘘を重ねてしまった。
差別。
その二文字が、俺の頭の中に、重くのしかかってきていた。