出立
村人たちに出立する意志を告げると、それは大層悲しんだ。
が、俺がいつかここを出ていく為にこれまで整備をしてきたことは話していたので、その日が来たことを、村人たちも受け入れてくれた。
出立の前日には、大きな祭りが行われた。
もちろん、酒が出てくることも無ければ、乱痴気騒ぎもない、新しい形式での祭りだ。
しかし、それでも盛大に賑やかに、楽しい雰囲気で俺たちを送り出してくれた。
ルカを連れていくと言ったことには、流石に反発があるかと思っていたが、逆にそれは歓迎され、むしろ大きな使命を負ったルカに期待するような声が大きかった。
祭りの夜、隣に居たルカに聞いてみた。
「どうして、着いてくる気になったんだ?」
するとルカは何故か少しムスッとした様子になって、
「一人の女は一人の男を愛し、一人の男は一人の女を愛しなさい」
と呟いた。
「え?」
「あなたが、そう言った」
あぁ。
確かに、それは俺がこの村に戒律として残した言葉だが、何故今それを?
村の秩序を正してくれた恩返しに、という意味か?
「感謝してるってことか?」
そう聞くと、何故かルカはまたムスッとした様子になって、
「もう良い」
とだけ呟いて、ラムの方へと向き直ってしまった。
んーー、なんだかよく分からないが、人狼には人間とはまた違った、忠義心みたいなものを持つのかもしれないな。
そんなことを考えながら、祭りの夜は更けていった。
*
「行ってくるねー!」
ラムが元気よく腕を振って、前向きな別れの挨拶をする。
翌朝、全ての人狼たちに見送られながら、俺たちは村を後にした。
向かうは、人間たちがいつもそっちの方向からやってくるという方角だ。
人狼たちにも、人間の街に行ったことのある者はいなかったが、人間に出くわしたことのある人狼は多く、人間たちはいつも同じ方角へと帰っていくらしい。
きっとこの辺りには、人間の街は一つしか無いのだろう。
そっちの方角に向かい続ければ、いつかは人間に出会うだろうし、街にも着くはずだ。
そして人間に出会った時の対策として、ラムとルカには、幻覚を見せる魔法であるミラージュをかけて、人間の姿に見えるようにしてある。
元々人型をしているので、角や耳や尻尾など、特徴的な部分を隠して、人間の服を着せれば、違和感なく人間に見えた。
もちろん、今は人間用の服なんて持ち合わせていないから、この服もミラージュで作り出した幻覚だ。
ラムには白いヒラリとしたワンピース。
ルカには冒険者風の革製のバトルスーツ。
決して俺の趣味で選んだわけではないぞ。
とは言えミラージュも、初級白魔法に過ぎないので、見破ることのできる人間も居るだろうし、不安要素が無いわけではない。
ひとまずこれは間に合わせで、もっと強力な幻覚魔法を身に着ける為にも、人間の街に急がなくては。
こうして、人間の街へと向かう、3人の旅が始まった。