偶像
さて、いつまでもここでこうしているわけにはいかない。
ゴブリン達から得られる知識はもう全て得られたといって良いだろう。
戦士ゴブリンからは、ジョブについて色々と聞きたかったのだが、戦士ゴブリンもジョブについてはよく分かっていないらしい。
ある日、村がニンゲン達に襲われた時、他のゴブリン達を守るために戦っていたら、突然頭の中に声が響いて、気付けばジョブを手にしていたらしい。
その他のことは何も分からないようだった。
ニンゲン達の町がどこにあるのか聞いてみたが、ゴブリン達は知らなかった。
ただ、この周辺には無い事は確からしい。
この近くまでやってくるニンゲン達は、誰もが長旅用の装備を身に着けているそうだ。
ニンゲンがよく訪れるポイントとしては、ここからあそこに見える山の方へ歩いていくと、湖があり、そこではよくニンゲンが目撃されている、とのことだった。
とりあえずそこまで向かってみるか。
俺が村を離れることを伝えると、ゴブリン達はひどく不安がった。
俺が居なくなることで、またゴロゴロに村が襲われると感じているらしい。
そこで俺は、高い木を切ってきて、細長く加工し、村の中心に立てるように命じた。
そしてゴロゴロがやってきた時には、その木から離れた所で円になり、しゃがんだ状態で、両足をくっ付けてかかとを上げる、地面からの感電を避けやすい体勢で、その木に祈れと伝えた。
避雷針ほどの効果は発揮しないだろうが、無いよりかはマシだろう。
いつか金属の加工技術のあるニンゲンの町へ行けたなら、この村の為に本物の避雷針を作ってもらい、また戻ってくることにしよう。
こうして俺は、原始的なアニミズムの信仰しか持たなかったゴブリンの村に、偶像崇拝と、儀式、という、新たな2つの信仰の形を持ち込んだ。
原始人の儀式の中には、こうした災害を避けるために、理に適った様式のものも見られる。
地球上においても、災害を避ける、というのが、一番初めの信仰の形だったのだろう。