進化
女性特有のふくらみが、俺の身体に密着し、ドキッとして思わずラムの身体を手で軽く押し返した。
はっきり言っておこう。
俺は、女性経験が無い。
宗教的な理由で、というわけではない。
新宗教Veritasでは、戒律やタブーなどの禁止事項は何も作らなかった。
「人間は神に縛られない。自由に生きて良い。ただ、自分の自由意志でもって、善か悪かの選択を迫られた時に、善の方を選べる人間になるべきだ」
と、説いてきたからである。
そして、俺は恋愛を悪だとは思わなかったし、むしろ善いことだと考えていたため、推奨していたくらいだ。
しかし、それまでの宗教の中には、信者には恋愛を禁止しながらも、教祖は酒池肉林の愉しみに溺れている、というような悪いものが数多くあった。
宗教家は、どうやら色欲に溺れやすい傾向にあるらしい。
そう判断せざるを得ないくらい、色欲に溺れる悪徳宗教家は多かったし、そうでなければ病的なまでに色欲から己を遠ざける道を生きていた。
俺も後者だったのかもしれない。
今までの悪徳宗教家のようにはなりたくなかったし、宗教の悪いイメージを払拭したかった俺は、それからもなるべく色恋沙汰には近付かないようにしていた。
もちろん、教祖時代には、女性信者から熱烈なアプローチを受けたことは数少なくない。
しかし、なるべくそれには気付かないふりをして、やはりなるべく遠ざけて生きてきた。
決して、俺が極度のヘタレだから手を出せなかっただけというわけではない、と、信じたい。
だがその結果として、俺は死ぬまで童貞を貫いてしまった。
しかもその人生の内の20年間は、人ともほとんど会わない修行生活である。
そんな俺に、このふくらみは刺激が強すぎる。
「どうしたの?ラムのこと、嫌いになった?」
「い、いや、そうじゃないんだ!女の子は、そう簡単に男に抱きつかないほうが良いんだよ」
「そうなの?分かった!気をつける!」
ん?女の子?
ふと気になって、俺はラムのステータスを見る。
ラム(0)
ストレイシープ(人型) 女
レベル:22
ジョブ:なし
HP:330
MP:400
攻撃力:34
防御力:37
魔力(無):44
素早さ:25
器用さ:25
おぉ、めちゃめちゃ強くなってる。
それと共に、今までには無かった名前表示と、種族名の横に「女」の表記が増えている。
魔物は、小さい頃には性別が無く、成長するにつれて分化していくのか?
まだまだこの世界には、分からないことが多い。