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後編「女神の恩恵」

   

 結局。

 ぷるるんなスライムに、俺の『ファイナルブレード』は通用しなかった。

 いくら剣で切り付けても、ボヨンボヨンと手応えなく、全く斬れなかったのだ。

 何物をも斬り裂く、という謳い文句は何だったのだろう?

 挙げ句の果てには、何度目かの攻撃にて。

 俺の斬撃をスライムが避けた拍子に、近くに転がっていた大岩に『ファイナルブレード』が直撃して……。

 なんと、岩ではなく『ファイナルブレード』の方が折れてしまったのだ!


 唖然とする俺を見て、何を思ったのか。スライムはピョンピョンと跳ねながら、どこかへ『逃走』してしまった。

 まさかモンスターに同情されたとか、呆れられたとか……。考えたくはないが、そうとも見える形だった。

 とにかく。

 俺の初めての戦闘は、こうして幕を閉じた。

 認めたくないような戦果だが、これも初戦ゆえの過ちということで。

 正直に報告するため、冒険者ギルドへと向かう。


「あら、帰ってきましたね。どうでした?」

 受付窓口のお姉さんは、優しい声で俺を迎えてくれた。

 すっかりしょげかえった俺の姿を見て、そして、出かける時にあった盾も剣も失われているのを見て。

 お姉さんは、事情を察したらしい。

「だから言ったのですよ、あまり武器や防具に頼っちゃいけない、って。新人さんが陥りやすい、よくある過ちですからね」

「でも……。『ファイナルブレーキ』も『ファイナルブレード』も、神様から授かった転生特典だったのですよ? それはもう美しい女神様が『これであなたも、新しい世界で冒険者として生き抜けることでしょう』って……」

 つい俺の口から、そんな言葉が飛び出していた。自分でも、なんだか言い訳がましい声に聞こえる。

 すると、窓口のお姉さんは笑いながら。

「ああ、それも、よくある話ですね。あなた、生前『きれいな女には気をつけろ』とか『女の言うことは信用するな』とか、言われたことありません?」

 ちょっと待て。

 そう言うお姉さんも、十分に『きれいな女』なのだが……。ならば、俺は、あんたの言葉も信じてはいかんのか?

 そんな気持ちから、ついつい反論してしまう。

「でも、人間の女じゃなくて女神様ですよ? 仮にも神に対して、信じないのは不遜の極みかと……」

 俺の生前の世界には『いけないなぁ、神のことを悪く言っては』という名台詞もあったのだ。

「ああ、あなた、何か勘違いしてるようで……。転生を司る神なんて、しょせん、中途半端なダメな神様ですよ」

「……え?」

「この世界の神にもなれず、あちらの――あなたの生前の――世界の神にもなれず。どっちつかずだから、その狭間の世界で『転生を司る神』なんてやってるんです」

 おいおい。そういうものなのか、神様って……?

「だからねえ。そういう神様の中には、とにかく人間をたくさん転生させて――転生を司る神として成果を上げて――、まともな神にランクアップしよう、って思ってる連中も多いんです。それで、手っ取り早く転生を納得させるために、いい加減な『転生特典』を、さも立派な物のように説明して、押し付けて……」

 彼女の話を聞いていると、転生に関わる神って、まるで営業成績にこだわるセールスマンに思えてくる。転生特典も、新聞勧誘の人がくれる洗剤とか映画のチケットとか、その程度のものだったのかもしれない。

 ならば。

 俺がもらった盾と剣も、実は、そんなに大した装備品ではなく……。

「まあ、詐欺みたいなものでしょうね」

 まるで俺の考えを読んだかのような、お姉さんの言葉。

 最後に彼女は、こう付け加えた。

「とはいえ、全員が全員、詐欺師みたいな神様ってわけでもないですよ。安心してください。だから、あなたも、次に転生する時は、少しはマシな神様に当たるといいですね」

「はあ。それはどうも」

 俺は、適当に頷いてしまったが。

 いやいや、お姉さん。「次に転生する時は」なんて、そんな不吉なこと言うのは、やめてくれ。




(「俺の自慢のファイナルブレーキが!」完)

   

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