1章3話 地獄に落ちない方法その1、雑巾がけ
3話
放課後になった。
向かうは図書室、なにか地獄について書かれた本があるといいんだけど。
しかし僕はコミュ障なので司書には聞けない、そして今どきパソコン検索もできない。
というわけでなんとなく当たりをつけて自分で探すしかない。
どうやら分類として哲学、歴史、社会科学、自然科学、技術、産業、芸術、言語、文学に分かれているようだ。
・・・哲学、社会科学、自然科学をなんとなく見てみたけどそれらしき本は見当たらない。
図書室は静かで集中できるし、隅っこでスマホで調べてみよう。
・・・キリスト教と仏教で地獄にも違いがあるのか。
仏教では六道ー天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道ーの最下層。輪廻転生とか極楽浄土も仏教の概念か。こちらのほうが馴染み深いな。
キリスト教では永遠の地獄と審判を待つ場所か、ハデスが閻魔大王のところでゲヘナが地獄みたいな感じかな?
地獄に落ちない方法で調べてみるとやっぱり徳を積むとか、ほとんどの人が地獄には行くとか色々あるな。
遺族にどれだけ惜しまれたかで減刑されるみたいだけどこの辺がネックかな。
それにしてもサンプルが足りない。僕だけが地獄落ちなのか、他の殆どの人も地獄堕ちなのかでまた話も変わってくるし。
しかし人前であの目を開くと通報待ったなしだ、夢だと思ってくれる可能性もあるがあまりリスクは冒したくない。
しょうがない、とりあえず徳を積むという方法を試してみるしかないだろう、面倒だが何もなければ1週間だ。それくらい頑張ろう。
今度はスマホに徳を積む方法と入力し調べてみる。
お誂え向きに一番上のページが徳を積む7つの方法とある。
これを1日毎に方法を変えて行い、試していくしかないだろう。
まずは雑巾がけか。
とりあえず教室と廊下の雑巾がけをしてみようか。
まずは教室だな。
教室に向かうと数人の男女がいる。
僕はコミュ障なので廊下から様子をうかがい、引き返す。
「突然雑巾がけを始めたら不自然だよな」
気になって話しかけられることもあるかもしれない、それはあまり好ましくない。でもじごくにおちるのとどちらが嫌かと言われると、地獄に落ちるほうが嫌だ。1週間の辛抱だ、そのへんも含めて頑張ってみるか。
扉を開けて教室に入る、当然中にいた人の目が僕に向いてくる。体が少し竦むがなんとか奮い立たせ掃除用具入れに向かう。
やはり行動が珍しかったのだろう、男の一人が話しかけてくる。
「もう掃除終わってるぞ、今日は6班がしてた」
ここだ、どうする、即興で嘘がつけるほど僕の対人レベルは高くない。しかし包み隠さず言っても興味を惹かれるか単に引かれるかどちらかだろう。しかし無言でいるのも不自然だ。
「徳を・・・」
「ん?徳?」
「徳を積もうと思って、雑巾がけがいいらしいから」
そう言うとかなり驚いたのだろう、空気が固まる。
一瞬だったのだろうけど体感的にはかなり長い。
その空気を壊したのは笑い声だった。
「ギャハハ!ありえないんですけど!徳?あんたそんなキャラだっけ?」
「この歳で徳なんて考えてるやついねーよ!お前は坊さんか!」
「マジウケる~」
一頻り笑われ、馬鹿にされる。やはり間違いだったか、でも他に言えることもなかった。
蛇に睨まれた蛙のように動けない、どうしよう、誰か助けてくれないかな。
そう思っていると再び教室の扉が開く。
担任の中川だ。体育教師をしており体が大きく声もでかい、僕の苦手な先生の一人だ。
掃除用具を持っている僕に興味を惹かれたのだろう、どうしたのか訪ねてくる。
今度は徳のことはおいておいて掃除をしたい旨だけ伝えてみることにした。
「おお!感心な心がけだな!健全な精神は健全な環境と肉体に宿る!よし俺も手伝ってやろう!おい!おまえらも手伝うんだ!」
そう言ってもともといたクラスの男女にも声をかける。よく考えたらこの人達の名前なんだっけかな?
しかし余計なことはしないでほしい。僕は一人で徳を積みたかったのに・・・。
一人でやりたいとなんとか口に出してみるものの、相手にされない。
男女は当然ブーイングだが、体の大きな中川先生に逆らえなかったのかブツブツ言いながら掃除を手伝っている。
・・・とりあえず目的は達成できたから良しとするしかない。なんか掃除中睨まれていた気もするけど良しとするしかない。
・・・疲れたから帰ろう。
寝る前に鏡で見た僕の寿命は何も変わっていなかった。
また明日頑張ろう。