表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

出会い

二人の出会いまでの物語。

同性愛表現あります。



挿絵(By みてみん)


魔法が存在する、獣人しか存在しない世界。

そんな世界を生きる魔法使いのお話し。


「ありがとう、助かったよクレメルちゃん」

ふくよかな猫獣人のいかにも庶民といったおばさんが沢山積まれた木箱を満足気に眺めて、クレメルと呼ばれる小柄な女の子にお礼を言った。

「また仕事があったら頼んでね」

クレメルは黒いとんがり帽子をかぶり直して人懐っこい笑みを浮かべる。

切れ目のある長い黒いフレアスカートから覗く白いレースのスカートがシンプルながらも控えめな華やかさを与える可愛らしい真っ白な兎獣人である。背も低いところが更に可愛らしさを際立たせていた。

フリフリや可愛らしい物が好きな彼女が好んで着ているのだが、本人も可愛いのでよく似合っている。


そんな彼女は魔法使いだった。

魔法使いと言えば、陰湿で交流もせず目立つ事を嫌い、村などから離れた場所に建てた家に引きこもって毎日怪しい魔法研究に明け暮れている犯罪者予備軍…(実際魔法を使って犯罪に及ぶ者が一定数はいた)というイメージがあったものだが、そんなイメージもすっかり古いものとなった。

というのも、ほんの数十年前に、魔法使い達の長年の研究によって魔力と想像力と正しい知識さえあれば誰でも危険だと思われていた魔法を安全に扱える事がわかったからだ。

数十年前までは疎ましく思われていた魔法使い達だが、今ではすっかり国に認められたエリート扱いである。

今でも消えない偏見はあるが、魔法を扱う仕事が増えたくらいには生活に馴染んでいった。


魔法に必要なものが魔力と想像力と正しい知識…と言えば難しそうに感じるが、実際は相当才能がない限り、正しい知識以外は大体のヒトが持ち合わせているもので事足りる。

魔力は体力のように、余程の事がない限りはほぼ全てのヒトが潜在的に持っているものがわかっている上に、想像力も一般知識があれば備わる程度の物で問題ない。

正しい知識は魔法学校で学べる財力とやる気があれば良い。

魔法学校設立当時は学費と入り口の狭さから貴族しか学べなかったが、魔法が生活に馴染む様に親しいものであってほしいという国の方針から今では庶民も頑張れば学べる様になった。

頑張れば…なのでまだ魔法使いの資格持ちの庶民は少ない。

まあ、無くても生活は出来るから…というのもあるのかも知れないが。


クレメルは頑張った庶民であった。

キラキラな魔法に憧れて、必死に親を説得して金を貯め、猛勉強をした末に魔法使いの資格を得た。元気と根性は人一倍ある女の子だった。

魔法を扱える様になったら、魔法で彼女の好きな可愛らしいアクセサリー型の魔法道具を作って売るのが夢だった。

(魔法道具は魔法使いが自分の魔力を込めた道具の事である)

アクセサリーを身につければキラキラして見えるとかそういう類いのものを作りたかった。

その夢はある挫折で潰えて今は魔法使いの便利屋をやっている。

親に気まずくて一人暮らしをしているのは内緒だ。


そんなこんなで、

猫のおばさんの依頼である商売用のフルーツがたっぷり収納された木箱を運ぶという仕事を終えたクレメルは報酬を貰って帰宅すべくピンク色の布で覆われた箒に横向きで座る。箒はフワッと宙を浮き、ゆっくりと空を飛んだ。正に魔法使いといった移動方法を、猫のおばさんは目で追いかけながら「私ももうちょっと若ければ空飛んでみたかったわあ」なんて呟いた。「お前の体重じゃ箒が重くて折れちまうよ!」と笑う亭主を体重を乗せた拳でど突いて木箱を運ぶ仕事にかかる。

クレメルはそんな夫婦の日常を空の上で眺め、なんだかおかしくってくすくすと笑いながら進行方向へ向かった。


クレメルの家は街から外れた森の中にある。

そんな外れた場所に家を構えるのは大体他人が好きじゃないヤツか、後ろめたい事があるヤツだが、クレメルはとある事情により後者だった。

森というのは魔物もいるし盗賊もいるしで物騒だが、家の周りに結界さえ張れば同じ知識がある魔法使いでない限り存在を認識されない。

便利だなあ。


クレメルを乗せた箒は街を離れ、森に差し掛かり沢山の木々の上を通っていく。爽やかな風を感じながら、報酬のオマケとして貰ったりんごでジャムを作ろうかななんて考えていたら箒がカタカタと揺れ出す。今までにない挙動にクレメルは焦った。もし箒に異変が起きてこんな上空から落とされたらきっとひとたまりもない。いや、魔法を使って大きなクッションでも出せば助かるが、なるべく魔法は使いたくない。一仕事終えて魔力が心許ないのもあるが…ともかく、クレメルは最悪落とされてしまう前に急いで森の中へ降りた。

不幸中の幸いか、獣道でなく、整備された道へ降りる事が出来た。物騒な森と言えど、隣町への近道なのである程度道が整備されているのだ。

整備されている道は魔物が寄り付かない結界が転々と張られている。

しかしそんな便利な道は魔物以外のよからぬ者を招きやすい訳で…。


「こんにちは可愛いうさぎちゃん?」

道に降りて箒の様子を確かめようとするクレメルにパンクを思わせる物騒な格好をした女獣人数名が物騒な顔で近く。その中には魔法使いらしき者もいた。

ーーまずい。

彼女達は最近この森に現れるようになった女盗賊団だった。街に注意喚起の張り紙が沢山貼られていたのを見たので彼女達の危険さをクレメルもよく知っていた。

残虐な彼女達は男にも負けない力と団結力で目につけた者の身ぐるみを剥がし、噂によれば毛皮まで剥いで簡単に命を奪う事ができるらしい。

毛皮を…想像するだけで血の気が引く。

その中に魔法使いもいるという噂もあった。


さっきの箒の異変はその魔法使いがやったことらしい。

物騒な骨の飾りを散りばめた黒いワンピースを纏った鼠獣人の魔法使いが得意げに笑っている。

乗っている箒を少し揺すってやれば大抵の魔法使いは箒の確認のために地上に降りる事を知っているのだ。

魔法使いが他の魔法使いの魔法に影響を与える事は法律で禁じられているが、盗賊なのだから関係ない。


つまり、クレメルはそんな危険な盗賊に目をつけられてしまった。

おそらく、仕事帰りの魔力が少ない時を狙ったのだ。

早速クレメルの頭には「死」という文字しか浮かんで来ない。体力に自信がない彼女の足では逃げてもすぐに追いついてしまう上に、魔法でどうにかしようにも向こうにも魔法使いが居るのだから魔法で対抗されてしまう。

詰んだ。完全に詰んだ。皮とか剥がされちゃうかもしれない。

こんな事になるならちゃんと親孝行すれば良かった。

魔法使いなんて目指さないで大人しく親のパン屋さんを継ぐべきだった。

ママの作ってくれる人参サンドイッチ、また食べたかったなあ。


死を覚悟しつつ怯えてその場から動けないクレメルに盗賊団の内の一人、狐の獣人がふぅんと意味ありげに呟いてクレメルに近づく。

「ボス、そいつ魔法使いだから油断しちゃダメですよ」

部下らしい黒猫の獣人が忠告するが、ボスと呼ばれた狐は大丈夫と手をひらひらと振る。こういうタイプは大した脅威にならない事を長い経験で知っているらしい。

スラッとして背の高い彼女は怯えるクレメルの顎に手を添えて顔を上に向かせ、視線を合わせる。男に負けないキリッとした顔立ちに切れ長の目がカッコいい狐だった。その鋭い目線は全てを見据えている様な錯覚に陥る。

カッコいいヒトだなあと思うと同時にこのまま首を掻っ切られて死んじゃうかも知れないと思うと涙が出た。

「嬢ちゃん、よく見たら可愛いじゃないか。私の部下にならない?」

狐がぺろりと舌なめずりをしてニヤリと笑う。

どうやら気に入られたらしい。

女盗賊団が女しか居ないのは、男子禁制とかそういう訳でなく、ボスが女好きという噂があったが、どうやらその通りだった様だ。

クレメルの了承を求めている様で、視界の端で刃物がちらつくので、イエス オア デッドといったところだろう。

こんな具合に気に入った女を配下に入れて団を拡大させるつもりなのかも知れない。


こんな盗賊の仲間になったらどんな事になるか分かったものじゃないが、死にたくない。

「なります」…と口を開きかけた所だった。

ドォォォオン!

辺りに生えている木と同じ高さの巨大な丸い物体がクレメルの背後に地面を鳴らしながら落ちてきた。

危険を察知したボスがクレメルから手を離し距離をとる。クレメルが魔法で何かをしていると判断したからだ。しかしクレメルも何が起きているのかわからなかった。

舞い上がった土埃の中で落ちた巨大な丸いもののシルエットが徐々に変わっていく。例えるなら、蹲っていた何かが起き上がる様だった。土埃が収まって、そのシルエットの向こうが明らかになるにつれ、その場に居る全員が唖然としていった。


そこにあるのは…大きな大きな、可愛らしいテディベアだった。


それも幼い女の子が寝るときに一緒に抱っこする様なテディベアだった。


「可愛い…」

そんな場合ではないのに、クレメルは思わずそう呟いた。大きさを除けば可愛い。

唖然とした盗賊団が我に返り、武器を構える。

「私の配下にはならないって事だな!?ならば死ね!」

「え!?ちちち違う違う!!私じゃないです!!」

今にも集団で切り掛かってきそうな盗賊団にクレメルが慌てて首と手を振るが、誰がどう見てもクレメルが馬鹿でかいテディベアを呼んだ様に見える。

しかしクレメルにこんな魔法はそもそも使えないのだ。

一体このテディベアがなんだかよくわからないが、今度こそ殺されると思ったそのときだった。


「俺だ」

テディベアの足元から人影が現れた。黒いとんがり帽子に黒いゆったりとしたローブを纏った年老いたトカゲの男性だった。彼も魔法使いなのだと一目でわかる。

「ジジイ、命が惜しくない様だな」

「後先短いからな」

ボスがその鋭い目で睨みつけてもトカゲの爺さんは毅然とした態度でクレメルの前に立ちはだかる。この謎の爺さんはクレメルを盗賊団から守るためにやってきたらしい。突然の救世主にクレメルは目を丸くして見ている事しか出来ない。

「ならお望み通り殺してやるよ。やれ!」

ボスが合図すると顔に大きな傷がある一際強そうな大柄の牛獣人が大きな木槌を振り上げてトカゲの爺さんに襲いかかる。こんなデカいヤツがデカイ木槌を振り下ろしたら、痩せこけたヒョロい爺さんなんて一撃でミンチにされてしまうだろう。しかし、的確に爺さんの頭上に振り下ろされた木槌はポンと小さな破裂音と共に花束へと変貌していた。鮮やかな花がバランスよくまとめられ、何重にも重なったレースが花を包んでいる。

「ほらよ」

「え」

あまりの出来事に驚いて木槌を振り下ろしたポーズで止まっている牛にトカゲの爺さんはその綺麗過ぎる花束を素っ気なく渡した。それを思わず受け取った牛の顔が段々とうっとりとした表情になり花束を抱えたまま力が抜けた様に女の子座りで座り込む。

「な、なにやってんだ!牛!」

ボスが慌てて牛に怒鳴るが

「だって、私…顔にこんな傷が出来てからこんな事された事なくって」

…と牛はうっとりした様子で答えた。その目は完全に女の子である。

「な、ぐ…てっテメエ…!私の女を…!!」

ボスは若干ズレた恨みを込めてもう一度トカゲの爺さんを睨む。

「エモノを返してやっただけだが」

トカゲの爺さんは何食わぬ顔でそう言い放つが、すっかり乙女になって花束をじっと見ている牛には聞こえていないようだ。

「くそ!お前ら全員でかかれ!!!」

すっかり逆上したボスが吠えると部下たちがそれぞれの武器を構えて突撃するが、見た目に反し驚くほど素早い身のこなしで振られた武器を躱し、その武器に触れては花束や可愛らしい人形に変えていく。ここまで素早く短時間で魔法を発動するのは非常に珍しい。目を奪われる様な光景だった。最後に盗賊団の魔法使いが放った炎を桜の花吹雪に変えてトカゲの爺さんは一息つく。

武器を変えられた部下達はそれぞれ唖然として立ち尽くしていたり、キラキラした目で可愛らしいものに変わった元武器を見つめていた。皆パンク風な格好をしているので勘違いしていたが、可愛いものが好きなヒトが多いのかも知れない。

盗賊団のひとじゃなかったら仲良くなれたかも。クレメルは爺さんの凄さに頭がついていけず、呑気にそんなことを考えていた。

「く…そが!」

部下が一人残らず戦闘不能になり、不利になったボスが自らトカゲの爺さんにおそいかかるが、それと同時にトカゲの爺さんが指を鳴らした。

「やれ。コットンゴーレム」

トカゲの爺さんの命令を受けてさっきまで仁王立ちのまま不動だったおおきなテディベア(コットンゴーレム)が柔らかそうな腕を振り上げる。あまりの迫力にボスの動きが止まるが、瞬時に我に返り振り下ろされるテディベアの腕を避けるため身を翻す。しかしすでに遅かった。

テディベアの丸太より何倍も太い手がボスに振り下ろされた。けたたましい音を立てて再び土埃が舞う。布が破れる様な音もする。思わず目を瞑ったクレメルが恐る恐る目を開けた。あんなに大きな手に潰されてしまったのだ。もしかしたらあの可愛らしい大きな手の下から血がジワリと広がってるかも知れない…。相当な覚悟をしてテディベアの手元を見るが、テディベアのガワは相当脆いらしく、地面に押し付けられた分、布の皮が破れて綿が大量にはみ出していた。綿に混じって星型のクッションが散りばめられていて大変夢かわいい光景になっている。

トカゲの爺さんが再び指を鳴らすとテディベアは地面からボロボロの腕を離し、再び仁王立ちのポーズに戻った。

取り残された綿が蠢いて、狐耳が現れる。ボスは無事だったらしい。ぶはぁ!と綿を払って息を吐くボスは…


ヒラヒラでかわいくて白いゆめかわロリータの格好をしていた。


無事じゃなかった。


「うわあ…」

あまりのギャップとカッコいい顔が可愛いで彩られているアンバランスさにクレメルは思わずときめく。

綿に包まれていたボスを心配そうに見ていた部下達も次第に頬を赤らめて口々に「かわいい…」とか「かわいいボスも好きかも…」とか呟いていた。

ボスはというと、自分の格好に気づいた瞬間に顔を真っ青にし、

「ギャアアアアアアアアアア!!!!!」

ロリータな格好から出るとは思えない絶叫をあげて狂ったように一目散に逃げて行った。

その後ろを慌てて部下達が走って付いていく。

「まってー!」「もっとよく見せてくださいボスー!」「いやーん!おいてかないでー!」

「そっち反対方向ッスー!!」

ボスがパニックになることにより部下にもパニックが広がり、誰一人クレメルとトカゲの爺さんに目もくれずに嵐の様に去っていった。

いろんな出来事が瞬時に去っていき、思わずぼうっとするが、トカゲの爺さんの背後にゆらりと近付く影に気づいた。

最初にボスに忠告をしていた黒猫だった。彼女だけはパニックに呑まれなかったらしい。彼女は腰に忍ばせていた短剣を握り、まだ気付いていないトカゲの爺さんに音もなく斬りかかろうとした。

「ボスによくも!!!」

「あぶない!!」

クレメルは咄嗟に魔法を発動する。

「なっ」

突然黒猫の足が何かに掴まれる。足を掴むものの正体を見下ろすと、そこには地面から大量の目玉が張り付いて皮を剥がれた様に肉と筋がむき出だしの腕が生え、黒猫の細い足をガッチリと掴んでいた。黒猫が思わず息を飲むと大量の目玉が一斉に黒猫を見上げる。そんな地獄から生えた様なおぞましい腕が更に一本ずつ地面から生え、身体にまとわりつく様に黒猫の両足、太もも、腰を恐ろしいほど強い力で掴んでいく。

「いやああーーーー!!!!」

手が胸まで届いた所でついに黒猫が悲鳴をあげ気絶してしまった。


黒猫の息を飲む声でやっと気付いたトカゲの爺さんは驚いた表情でその光景を見ていた。おぞましい腕が大量にまとわりつく魔法…常人では考えられないものだ。盗賊団の魔法使いはボスと一緒に逃げてしまったので、ここで魔法を使えるのは爺さん以外に一人しかいない。

「今のはお前か?」

トカゲの爺さんがクレメルに振り向くとクレメルは顔をあさっての方向に向けて目を覆っていた。

「魔法…消えました…?」

魔法を発動させた張本人であるクレメルが怯えてよくわからない事を言うので、一応腕が消えたのを確認してから消えた事を教える。

魔法が消えたことに安堵したクレメルはホッと一息をついた。そして思い出した様に頭を下げる。

「あの!助けてくださってありがとうございました!!」

しかしトカゲの爺さんは渾身のお礼よりもさっきの魔法が気になった様だった。

「俺も助かったから良い。それよりさっきのはなんだ。お前の魔法なのか?」

トカゲの爺さんの質問にクレメルは顔を強張らせる。しかし命の恩人に嘘を吐く訳にはいかない。クレメルは一、二度深呼吸をした。

「私、()()()()()なんです。」


トラウマ型とは

魔法は魔力と想像力と正しい知識があれば扱えるが、実際に発動するものは深層心理に基づいた魔法である。要するに心の中に強く影響に残ったものが魔法として現れるのだ。

それは多くが「感動的なもの」であり、大抵のヒトは魔法のかっこよさなどに胸を打たれて魔法使いを目指すので、思った様な魔法らしい魔法が発動されやすい。

しかし、ごく稀にポジティブな影響ではないものが発動される事がある。


トラウマ


本人にとって最も嫌なもの、恐ろしいものが本人の意に反して現れることがある。

原因は未だ解明されていないが、そういった意に反した魔法を発動させてしまう魔法使いはトラウマ型と呼ばれる。

つまり、さっきのクレメルは“黒猫の足を止める”ために魔法を発動したのだが、勝手にあの腕が大量に生えてきた事になる。


その稀な魔法使いがクレメルだった。

大体の魔法使いは自分がトラウマ型と分かれば魔法を使うのやめてしまう。

しかしクレメルは苦労して手に入れた魔法を簡単に手放したくなかった。なによりこんな事で夢が潰えてしまった事が悔しいから意地でも魔法使いをやっていたところがあった。

クレメルは結構負けず嫌いな子なのだ。


「そうか…珍しいな…」

トカゲの爺さんは感心した様に顎をさする。

ただでさえ珍しいトラウマ型が更に珍しく魔法使いを続けているのだ。


「ひ、引かないんですか…?あんなグロい魔法使ったのに…」

クレメルは俯き加減にトカゲの爺さんを見上げる。


クレメルがうっかり魔法を発動するとそのあまりの恐ろしさに誰もが悲鳴をあげてその魔法を発動させたクレメルを恐ろしいバケモノを見るような目で見てくる。

トラウマ型はそれなりに認知されていても、自分以外には全て自分の意思で発動させているものに見えてしまう。説明しようとしても理解をしてもらった事はあまり無かった。

クレメルはそのうっかりで仕事場を転々と変え、ついに家でもうっかりしても大丈夫なように、人気の少ない森の中で住む事にしたのだ。

クレメル自身、自分の魔法を見てしまうと最悪、気絶してしまうので自分の魔法をあまり使わないようにしていた。

本当は家の結界も売られていた結界が張れる魔法道具で発動させている。

正直魔法使いとして意味がないが、工夫次第ではなんとかなるので意地でも魔法使いをやっている。


「引かないな」

しかしトカゲの爺さんはそれだけ言って興味深そうにクレメルを見つめる。

歳の分だけ経験を重ねるとこういう事に驚かなくなるのだろうか。

しかし口数が少ないなあこの爺さん。

あんまり無言で見つめてくるので、クレメルは他の話題を探して、ふとトカゲの爺さんの魔法を思い出す。

「そういえば、可愛いもの…好きなんですか?」

目の前の爺さんが常に機嫌が悪そうなその顔に似合わず自分好みの可愛いものをたくさん生み出していた事を思い出した。

クレメルはどんな人がどんなものを好きであっても構わないタイプだ。むしろそれが好きなら凄く仲良くなれるかも知れないと思った。命の恩人だし。好きなものが分かればお礼も思いつきやすいかもしれない。一石二鳥!

ドキドキしながらトカゲの爺さんの返事を待つと

「大嫌いだ」

「えええ!?」

あまりにバッサリと切り捨てられた。

「どうして!?だってあんなに…」

クレメルが途中で気づいて言葉を詰まらせる。

「お爺さんも…トラウマ型なんですか…?」

自分の意に反する魔法をするとなればトラウマ型しかない。

トカゲの爺さんは目をそらした。

クレメルはそれを肯定と捉える。

クレメルがトラウマ型と知ってあれほど見つめてきた理由がやっとわかった。数少ない仲間だったからだ!

トカゲの爺さんは気まずそうにポツリと話す。

「俺は…お前の魔法が羨ましい」

「え…私は爺さんの魔法が羨ましいのですが!!」

こんなグロい魔法が羨ましいなんてヤバそうだが、理想の魔法が互いに違うのはレア中のレアである。


クレメルは思いついた。

お互いの魔法が羨ましいなら、どうにかして二人とも欲しい魔法を扱える様になれないだろうか。

トラウマ型はそうでなくなったという例は無いが、謎が多い症状なので解決策が無いとも限らない。しかも偶然互いの魔法が欲しいなら何かしらが作用してもしかしたら!あわよくば!交換できないこともないこともないかもしれない!

「お爺さん!名乗り遅れましたね。私、クレメルって言います」

「ん、ああ。ラケルタだ…」

「ラケルタさん!!!」

ラケルタが名乗り終える前に両手で力強くラケルタの手を握る。あまりの勢いにたじろいだ。

「一緒に!トラウマ型を治しませんか!?」

「は?」

若い勢いにのまれて思わず間抜けな声を出す。勢いについていけないラケルタをクレメルはまっすぐな瞳で見つめる。

勢いに任せてクレメルは自分の考えをラケルタにぶつける。勢いにたじろいでいたラケルタも次第に冷静を取り戻し、クレメルの話を聞いた。

黙って聞くラケルタを見ていると、クレメルは説明していく次第に自分の思いつきが浅はかなものである様に思えてきた。

よく考えたら魔法を交換って意味わかんないし。無いかも知れない可能性にかける相当な物好きはいない。

冷静になったら恥ずかしくなってきた。

燃え盛るマッチが消える様にクレメルの勢いも消失していく。

「悪くない考えかも知れない」

しかしクレメルが思ったものとは違う返答が返ってきた。

「へ!?」

「数十年前も魔法は素質があるごく一部にしか扱えないと言われていたが…今、一部の魔法使いの研究により昔では考えられない数の者が魔法を扱えるようになっている。当時、今の様になれるのは不可能に近いとまで言われていた」

ラケルタは冷静に解説する。それを聞くクレメルはみるみる興奮していく。

「それなら!!」

「やってみる価値はある。という事だ…幸い、今までにないと思われる条件が揃っている。俺も協力しよう」

「や…やったーー!!よろしくお願いします!ラケルタさん!!」

クレメルは先程の勢いを取り戻してもう一度ラケルタの手を握る。ラケルタはまたもや付いていけないながらも、今度はその手を握り返した。

「ああ、よろしく」


奇妙な魔法使いコンビが人知れず生まれる瞬間である。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

続きはまだ未定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ