第1章 夢であってほしい現実
好きな本って伏線たっぷりの物語なんだけれど、自分で描くの滅茶苦茶難しいですね。やっぱり西尾○新さん天才だ。
翔は夢を見ていた。壮大な夢だ。
自分は空を飛んでいる。鳥というより、昔見たアニメの天使についてそうな白く、触り心地の良さそうな大きな翼が生えていた。朝日はあいかわず白くて綺麗な猫だ。俺の前下げのバッグの中に入って、ちょこんと頭を出して会話している。
なびく風を心地よく感じながら飛んでいると、全身を綺麗な紅蓮色に染めている威厳のありそうな巨大なドラゴンが飛んできた。
何故か俺はそのドラゴンに対して恐怖心というものは全くなく、なんならそのドラゴンとも親しげに話している自分がいる。
全身を不思議な光で包みながら飛ぶ沢山の小さい妖精達。
軽く緑がかった雲に乗って、笑い続けてるお爺さん。
みんなみんな寄ってきて飛んでいる。渡り鳥まで列を成した。
あぁ。なんて心地良いのだろう。今までの事が嘘みたいだ。なにもかも忘れて飛んでいたい。
・・・今までの事?なにがあったっけ。
そんな不安を感じると、急に快晴だった空が紫色に染まり、俺は背中に違和感を感じる。羽が消滅していく。
まずい!このままだと落下してしまう。
朝日を守らないと!そう思い、バッグを胸に押さえつける形で守ろうとする。その時、自分が落ちて行く感覚とともに全ての事を思い出した。本屋が倒産してしまった事。片付けの最中に本に吸われてしまった事。あぁ、自分は何をしてるんだ。
そんなことを考えてしまった一瞬の合間に白猫がバックからすり抜け、翔の頭上に風に煽られ遠くへ行ってしまう。
俺は自分でもびっくりするぐらい大きな声で白猫に向かって叫んでいた。
「あさひ!」
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「はわわ!うるさい!!」
『ペチッ』と可愛らしい音を立てながら、俺は綺麗な白毛の猫に頰を肉球で叩かれた。ベッドか軋む音もした。
起きたばかりで頭が回らない。なんで猫が喋った。しかも朝日の声だ。
夢の続き?もしかしてまた空飛べる?
「そんな大きな声で私の名前呼ばなくて良いでしょ!?」
そう言いながら、白猫はベッドの上で前両足に顔を疼くめながら、尻尾を揺らしている。
少しの間ボーっとして状況が読み込めなかったが、だんだん冷静になり、今までの事を思い出していけばいくほど、羞恥心が自分の汗腺を攻撃してくる。変な汗が大量に出てきた。
………どうやら夢の続きで俺は朝日の名を叫んだみたいだ。しかも『呼び捨て』でだ。仕事場でも読んだ事がなかったのに。
頰が焼けるかのように熱い。恥ずかしさを紛らわすためにすぐに体を起こした。
周りを見渡す。日常感の溢れる部屋だ。俺の記憶が正しければ森の中にいたのだけれど、流石に次々と起こる問題に慣れてきてしまったのか、あまり驚かなかった。
しかし、不思議な部屋である。木の壁で出来ているその部屋は、半球体のようだ。あのスーパーとかに置いてあるガチャポンの入れ物の半分みたいな形の部屋といえば伝わるだろうか?
「すみません。朝日先輩。俺寝てしまったみたいで……ここどこですか?」
……正直まだ白猫の朝日には慣れないが、声が変わらずでいてくれたからだろう。普通に喋りかける事ができた。
「大丈夫!ここはね、アリスちゃんとカール君の家だよー」
どこかと聞いたのは俺だが、全くもって聞き覚えのない名前が出てきて尚更困惑した。
アリスちゃん?カール君?誰それ…
頭をポリポリかきながら考えていると、部屋のドアが勢いよく開いた。
「起きたのね!人間!」
「おはよう。人間」
そこに現れたのは特に飾った服装ではなく、大人用の無地のTシャツをロングスカートのようにきた赤髪の女の子と、緑髪の男の子。
察するにこの子らがアリスと、カールだろう。
髪の色は派手だが、すごく似合っている。ただそれよりも気になるのは…
耳が『ハリー○ッター』に出てくる『ト○ー』の耳に瓜二つなのだ。言葉に直すとするなら、大きな葉っぱのような形をしている。
目を思わずパチクリしてしまった。
その不思議な耳の形をした生き物は一応思い当たる。そのまま思った事がつい口に出てしまった。
「……エル…フ?」
「あら、あなたは私達のことしってるのね!」
「そっちの喋る猫は何も知らなかったよ。」
そういうと、2人の子供はクスクスと笑った。
「一応約束だから体を見るわね!じっとしてなさい!」
「そこの白猫を村長に連れて行くんだ。我慢してね。」
そういうと、俺に向けて右手の平を2人とも向けてきた。
その瞬間、青白い光が俺の胸に向かって手の甲から放たれた。
「?!」
なんだあれは!もしかして…魔法!?
さっき『エルフ』ということも肯定していたし、もしかしてそういう世界に来てしまったのか!?
……しかし、それを冷静に考えるのは後の話だ。
何がなんだかわからない光が俺を襲おうとしているんだ。俺はベッドの上で後ずさりをしようとした瞬間……
「じっとしてなさいって言ったでしょ!」
「言葉の意味伝わってないの?」
そう言って、残っていた左手の平を2人に向けられた瞬間赤い光が襲ってきた。
青白い光とは比べものにならない速度で放たれたその光は、反応する間も無く俺の腕と足をベッドに拘束した。
青白い光も1秒差ぐらいで俺の胸に届いてしまった。
「うわぁぁぁ!やめろぉぉぉ!」
ほぼ反射的に言葉がでてしまった。けれど…
青白い光は俺を胸から広がるように包み込むと不思議と暖かく、こそばゆい電気が全身流れるような感覚。軽く心地よい。
「体の調子を見てるだけなのに、みっともないわね!」
「人間って面白い生き物だね。」
「あははは!翔君ダサい!笑」
「なんで朝日先輩も便乗してんの!?」
唯一の救いだった朝日にまで笑われた翔だった。
そんな訳で健康診断?が終わった。
何だかんだすぐに拘束を解いてくれた2人の子供はクスクスと思い出し笑いをしているみたいだ。何故かそこに朝日まで参加している。なんでだよ。
ただ、そんなところでイライラを募っても仕方ない。さっきの力のことは聞いておかなければならないだろう。
本の中に吸い込まれた時点でもう俺の知ってる限りファンタジーの世界だ。今の事態を冷静に理解しておかないと…
信じたくないけれど、俺の知っている限りさっきの力の『正体』は俺がアニメでみたエフェクトと似ていた。
認めたくないが、聞くしかなかった。
「お前らの使ってたその力は…『魔法』なのか?」
「お前らじゃない!アリスよ!でも、人間が魔法知ってるなんて凄いわね」
「お前らじゃない。カールだよ。でも本当よく知ってるね。」
「あぁ。やっぱそうなのか。」
俺はその答えを聞きたくなかった。頭に右手を当て
「はぁ。」とため息をつきながら首を振った。
どうやら俺と朝日は確実に『異世界』というものに入ってしまったようだ。
『エルフ』という存在。信じられない『魔法』だって自分で体感してしまった。
ここは俺の知っている『世界』じゃない。
俺が中学の時に憧れ、『ありえない世界』と割り切った場所だ。
心の整理なんてつくはずがない。まだ俺が学生の時だったらこの世界にワクワクを感じていたかもしれないが…
だが、俺は社会人になって働いていたのだ。色々現実を知ってしまっている。知りすぎている。
人間という生き物はすごく軟弱だ。
言葉だけで死に追いやられる。お金がないと生きていけない。瓶で頭を殴るだけで死んでしまうのだ。
さっきの事を思い出して欲しい。
魔法をかけられ、拘束された時。俺の体はピクリとも動かなくなった。こんな子供の力でその威力なら、大人はどうなってしまうのだろう?
どうやってこの世界でお金を稼ぐの?
エルフがいるという事は、もっと凶悪な生き物だっていておかしくはない。
そんな世界の中に俺と朝日は放り込まれてしまったのだ。しかも朝日は白猫になってるし。
そんなうなされている俺には気をかけず、アリスとカールは時間を気にし始めた。
「そろそろ村長と会う時間だわ!いかないと」
「そうだね。朝日いこう。」
「はーい」
朝日はアリスに魔法で持ち上げられ、2人と朝日は部屋を出ようとした。
……いつのまにか名前呼びになってるんだが?さっきまで「白猫」って読んでたよな?さっき俺の事笑ってた時に仲良くなったのか? おかしくない?
……そんな事。と割り切るのも癪だが、必死に声をかけた。
「まてまてまて、どこ行くの!?俺どうしてればいいの!?」
「この村の村長に会う条件で翔君を助けてもらったの!あってくる!」
「そういう事なの!じゃあね!」
「そういう事なの。行ってきます」
『バタン!』という音を立て、そのままドアはしまった。
「俺の扱い何!?理不尽だろぉぉぉぉ!」
俺は叫ぶしかなかった。
さあ、やっと物語が面白くなってくるところだと思うので、しっかりと書き上げたいな。と思ってます。
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