恋におちて
この生活が始まって一週間になる。
前回の『やーさん』もこちらがわの完全な勘違いで、気の良い土木作業員のオッサンだったのだ。
安心した事も相まってか、ここでの生活も快適になってきた。
だって三食昼寝つき。
こんな快適な生活あるだろうか?
今まで仕事人間だった俺には考えられない時間の過ごし方である。
前回の読者ならお気づきかもしれないが、一人称を『私』から『俺』に変えさせていただいた。
理由は『私』だと堅苦しいんだもん(笑)
先ほどの話しに戻るが、暇な時間は携帯ゲームをしているか読書をしている。
勘違いしては、いけない。
読書と言っても漫画、活字は肩がこるのだ。
入浴も共同の大浴場があるのだが、軽い潔癖の俺にはノーセンキュー、もっぱらシャワー室だ。
共同のシャワー室なのだが使ってみるとそんなに悪くなく、水圧は強すぎるぐらいが丁度いい。
それ以外の時間は喫煙所で一服、至福の時だ。
最初の頃は、ただ煙草を吸って出るの繰り返しだったが最近は喫煙所での会話相手が沢山できた。
書き出したらきりがないくらい、この生活が心地よい。
ぬるま湯に肩までつかるぐらい気持ちいいのだ。
そんな、平穏な一時を味わっていた俺に事件が起きた。
スッキリの安部さんばりの
『加藤さん!事件です。』なのだ。
夜中に目が覚めた俺は、いつものように喫煙所に向かった。
喫煙所は夜十時を越えると電気が消えるのだが、俺が喫煙所に付くと既に電気が点いていた、先客だ。
そこで煙草を吸っていたのは、いつも喫煙所で談話をする『リンさん』という女性。
リンさんが中々の曲者で極度の恋愛体質なのだ。
おそらく常に恋をしていたい人なのだろう、同棟の男性に恋をしたと言うのだ。
乙女のように、どうやって近づいたらいいだ、何をプレゼントしたらいいか?等どうでもいい事を相談してくる。
俺も営業マン、この会話に相づちを打ちながら適当に会話を流していた。
納得したのか、満足したのか、リンさんとの会話は、そこで終わったのだ。
ただこのやり取りは、この日を境に毎晩続き俺も心底めんどくさくなっていた。
病院で恋なんかすんなよ、と偏見の塊でそう呟いた。
ある昼下がり喫煙所に行くと見知らぬ女性が煙草を吸っていたのを見つけた。
新人さんかな?と思い、軽く挨拶を交わし顔を確認。大事である。
色白で細身、整った顔立ちのショートカットの美人だ。
天使かと思った。
恋に落ちたのは一瞬だった。
9行ぐらい前で呟いた俺をジャーマンスープレックスしたいぐらい恋とは『突然』なのだ。
FIELD OF VIEWぐらい『突然』なのだ。
『恋』なんて甘美な響きだろうか。
一目惚れとは、この事だろう、
ただ昔から奥手な俺には挨拶ぐらいしかできない。(※既婚者です。)
研ナオコも夏をあきらめたのだから俺も恋をあきらめようとし、いつもしていた携帯ゲームを始めたその時
「そのゲーム私もしてますよ。」
WHY?誰に言ったの?とポカンとした顔で彼女を見つめると
「そのゲーム私もしてますよ。面白いですよね。」
大事な事なのだろう、二度同じ事を言ってくれた。
この言葉の返答に思わず「好きだ!」と答えなかったのは俺の理性だろう。
褒めてほしいぐらいである。
この会話が約一時間ぐらい続いただろうか、このまま時が止まればいいと千二百回くらい思った。
事件の内容は俺が恋に落ちたことではない、この後だ。




