第一話――悪行失敗――
俺、ルヴェスタ。何十億年か前から生えてるらしい、世界樹の葉っぱから生まれた、俗に言う森の妖精サン。
「みんなが平和に、笑って暮らしていければ幸せだわ」
だとか、
「歌を歌っている間はどんな哀しいことも忘れていられるんだ」
だとかの、のんびりしたことばかり言ってる連中に囲まれて育った、実に不幸な若者だ。
だってそうだろう? そんな退屈な事ばかり言いながら、よくもまあみんな千年も二千年も生きてきたものだ。俺はまだ三百年しか生きてないが、この日常に飽きるには十分な年月だったと思う。
と、いうわけで。
「俺、今日から悪人」
宣言してみた。
その瞬間から、俺の日常は大きな変化を遂げた……訳ではなく、恐ろしいことにほとんど変わらなかった。
俺が何の行動も起こさなかったのではもちろんなく、単にこの森の妖精たちが見事なまでにのんびりしていたからだ。
我ながら、なかなか非道な事をしたと思う。
まず手始めに、鍛冶屋へ言って武器になりそうなものを強奪してきた。
とは言っても所詮はこの森の鍛冶屋だ。剣やら槍やらの攻撃を目的にした刃物なんかあるはずがない。
仕方なく、年老いて自然と倒れてしまった木々を細かく割るための大きな斧を頂いたわけだが。
しかし、無言で押し入り、勝手に商品を持ち出された鍛冶屋は、
「あれ。持ってくの、そんな重いもの? いいよー。あげる、あげる」
と、実に朗らかに言ってくれやがった。なんというかものすごく腹がたったので、試しに首と体を手に持った斧で切り離してみたところ、きっかり五秒後にはすっかり元通りになり、
「びっくりしたー」
などと笑っていた。
驚くなかれ。俺たちが何から生まれたのかを忘れてはいけない。そう、世界樹だ。あの短命で脆弱な人間たちでさえ、煎じて飲めば五百年は生きられる世界樹の葉っぱの化身なのだ。
肉体的な損傷を理由に滅びることが有り得ない、そんな種族に生まれたのは俺の最大の不幸に違いない。
その後しばらくは仲間の妖精たちを切り刻んでみたり、話したこともない女妖精の家に押し入って食糧を根こそぎ奪い取ったりと、思いつく限りの悪行を重ねたが、結局誰一人として怒ることすらせず朗らかに許してくれやがったので、俺は生まれた森で悪人を目指すことを諦めて、西にある黒妖精の森へ向かったのだった。
目的はただ一つ。俺の悪行に戦々恐々とする街の様子を拝むために!
今から千年も前の出来事だが、未だに忘れることの出来ない苦い思い出だ。とにもかくにも、これが俺の、ちょっと変わった旅路の始まりだった。
初投稿です。まだ主人公しか登場していませんが、次からはどんどん登場の予定です。女性向けかつ大人向けな展開へ走りつつ、ギャグを目指して進んでいきたいと思っています。興味を持って貰えたら、読んでいただけると嬉しいです。