94/95
最終話 月がきれいですね③
眩暈、地面がなくなったかのような感覚がわたしに襲いかかる。
わたしは、倒れ込んだ。
目を開けた時、光がみえた。そこは、病院ではなかった。
そして、そこは綺麗な夜空だった。
大きな月と星がすぐそこにあるように見える。
そして、わたしは宙を舞っていた。
無重力状態の浮遊感とともに、月がわたしから離れていく。
ゆっくりと、わたしは地面に落ちていく。
最初の時とは、違ってもう焦りはなかった。
帰って来たんだ。その安心感が強かった。
たぶん、この地面の下には……。
彼がいて……。
少しずつ、地面が見えてきた。
そこには、見覚えがある人影が待っていてくれた。
わたしは、人影をめがけて飛び込んでいく。
言葉は必要じゃない。もう、彼しか考えられなかった。
わたしは彼の腕の中に包まれていった。




