第77話 真実2
「どうして、人類はふたつに別れたんですか?」
かろうじて、出せた声がそれだった。
王様たち“新人類”と、魔人たち“旧人類”。わたしも、旧人類に分類されるはずだけど……
わたしと魔人では、姿が違いすぎる。
「そうだね。君は西暦何年から来たんだい」
久しぶりに聞く西暦という単語。フードのおとこが、どうしてその単語を知っているのか。やっぱり、彼はわたしと同じ世界の……
「2018年です」
「そうか。では、わたしより、約400年前の人ということか」
400年前。ということは、アイザック氏は25世紀の人間ということか。
「そう、事件が起きたのは、西暦2432年。人類は、神を創りだしたのだ」
「神?」
仰々しい名前が出てきた。
「そう、God。神様だ。人工的に作り出された、世界最高のスーパーコンピュータ“ラプラス”。そのスーパーコンピューターは過去のあらゆるデータを集積し、因果を組み合わせることで、将来のすべてを予測できる画期的なものだった」
「だから、“ラプラス”なんですね」
「その通り。人造の全知全能の神。現代のデウス・エクス・マキナとももてはやされたそれによって、将来の可能性はすべて予測され、わたしたちに様々な恩恵をもたらした。だが、それが悲劇のはじまりだったのだ」
「なにが起きたんですか?」
「それを創りだしたインディアナ連邦が“ラプラス”を独占しようとしたのだ。そうすれば、世界の覇権はたやすく手にはいるとな……。しかし、」
アイザック氏は、急に口を閉ざした。
「それに反発する国と戦争になったのですか?」
王様はそう言った。
「そう。それに反発したユーラシア共和国、ローデシア帝国は、インディアナ連邦に宣戦を布告した。世界大戦が起きたんだ」
「でも、“ラプラス”はそれも予測していたんじゃ……」
「そう、予測していた。戦争が起きる12月15日以降の予測をエラーとすることでな」
「……」
「ほとんどの人はそれを、機械のエラーだと思い込んでいた。開発者のわたし以外はな」
「開発者?」
「そう、開発者だ。わたしは、神を創造した男であり、世界を亡ぼした男でもあるのだ」
アイザック氏は、沈痛な表情をした。
「それで、世界は……」
「君の時代にあった核兵器を上回る“超重力爆弾”というものが使われてな。世界はわずか10分で、ほとんどが灰となった。世界人口5兆人は、一瞬にして31人まで減少したのだ」
「なぜ、あなたたちは生き残ることができたんですか?」
わたしはそう問いただす。
「わたしたちは、立場上ラプラスの予言をみることができたからな。爆撃の影響を辛うじて、受けない場所の地下に避難した。できる限りの、生物と植物をもってな」
「なぜ、あなたは戦争を止めなかったんですか?」
わたしは怒気をこめてそう言った。
「回避する努力はしたよ。でも、その努力をしても、予想されるXデーを数日しか遅らせることはできなかった。もう、残された道は種の存続をはかることしかなかった」
彼の眼は潤んでいた。
世界を滅ばしたこと。罪悪感なんて言葉じゃ表現できないほどの、十字架が彼にはのしかかっているのだろう。
「では、この世界に伝わる神話のような歴史は……」
「すべてが真実だよ。人間たちは増長し、神の世界を目指す機械文明という塔を作ったが、結局は神の怒りをかってしまいすべては灰燼に帰した。例えば、アグリ国にあるバルベの塔は、旧日本にあった高い塔の名残だ」
「その後、世界はどうなったんですか?」
彼は話を再開する。




