第76話 真実1
「あのときの……」
わたしはその男をおぼえていた。忘れられるわけがない。だって、この男は、わたしを殺そうとした男なのだから……
王様の顔が険しくなる。オーラのようなものがでているような気がする。一触即発の状態だ。
「久しぶりですね。あの時は失礼しました」
フードの男は、そう言った。柔和な口調だが、それが不気味だった。
メガネをかけた小太りの初老の男。鼻が大きく、特徴的だ。威圧感はなく、学者面の紳士。ひとを殺そうとしたこともないような紳士だが、だからこそ不気味だった。殺意のようなものが、その笑顔からにじみ出ている。
「そんな怖い顔しないでください。今日は話し合いなのだから」
彼はそう言った。わたしたちは、未だに緊張を解けない。
「だいたい、さっきまでの状態で、殺そうと思えば、いつでも殺せたんだから」
下品な冗談だった。冗談とはわかっていても、怖い。彼なら、本当にそうできるとわかっているから、なおさらだ。
「魔王さま」
脇に控える女大臣が、男を戒める。やはり、この男が魔王と同一人物なのか。
「この姿で、魔王はやめてくれよ。わたしは人間だ」
魔王が人間? 意味がよく分からなかった。
「では、あらためて、自己紹介を。わたしは、アイザック。人間の男だ。昔は、学者をしておった」
「昔?」
王様は、険しい顔でそう言う。この世界の最長老である魔王が、人間であって、学者。頭が混乱する。
「順を追って話そう。まあ、座りたまえ」
そう言うと椅子とテーブルがまた用意された。これができるということが、フードの男=魔王を証明している。
「さきほども言った通り、この世界は異世界ではないんだ。葛城さんがいた世界と同じ世界なんだよ」
「でも、わたしのいた世界には魔法なんてありませんでした」
うむ、と彼はうなづく。
「簡単に結論を言いましょう。この世界は、あなたが住んでいた世界の未来の姿なのです」
「機械文明は一度滅び、新しく魔法の文明ができました。それがこの世界です」
「では、わたしは……」
「そうです。あなたは、異世界に転移したのではないんですよ。時間旅行をして、ここにいらっしゃるんです。あなたは未来の世界に来たんです」
「…………」
「…………」
わたしたちふたりは、沈黙する。この世界は異世界じゃなく、未来? わたしは、タイムトラベラー?
「そして、わたしたち魔人の正体ですが……」
この後、また真実という名の爆弾が投下される。わたしは無意識で、身構えた。
「葛城さんが住んでいた機械文明の生き残り、つまり、“旧人類”とその末裔です」




