第6話 契約結婚?
「であれば、兄さん。そして、カツラギ様。おふたりが結婚なさってはいかがでしょう? 」
宰相さんはとんでもない提案をしてきた。
結婚?異世界で?それも、あったばかりの王様と?意味がわからないよ。
「レクスよ。カツラギ様に失礼ではないか。なにを馬鹿げたことを言っておるのだ」
王様は諭すようにそう言った。
「結婚なんて……。突然、すぎて考えられませんよ」
わたしも同感だ。リストラされたら、異世界に召還されて、お妃様。どんなシンデレラストーリーだ。
「おふたりとも、よく考えてください」
宰相は冷静に話を続ける。
「民はカツラギ様のことを、女神様だと誤解しております。あの祭りの後、国中がその噂で盛り上がっていることでしょう」
「まぁ、そうだな」
「そうですね」
そこはふたりとも同感だ。
「そんな状況の中で、カツラギ様を市井で暮らせるようにと、住居を用意するとします。そうするとどうなるでしょうか? 」
「……」
「……」
「間違いなく民がうわさを聞きつけて、殺到するでしょう。そして、カツラギ様は、女神としての振る舞いを求められる。もしかしたら、病気の治療や雨ごいなども頼まれるかもしれません」
「ふむ」
「しかし、カツラギ様には、おそらくそのような異能はもっていないでしょう」
「はい、そんなことできません」
わたしは普通のOLだ。超能力なんて、求められても困ってしまう。
「逆上した民衆が、カツラギ様をペテン師だとか、女神の名前を語る異端者などと決めつけ、迫害されてしまうかもしれません」
「「たしかに」」
ふたりは同時に感嘆の声をあげる。
「で、あれば、われら兄弟が直接、守ることができる王宮にかくまうことが最善なのです」
「だが、どうして、結婚なのだ?。理論が飛躍してないか? 」
「カツラギ様はこの世界とは縁もゆかりもないかたです。もし、緊急事態に巻き込まれても、今の立場ではどうすることもできません。ただでさえ、王宮は嫉妬深い連中も多い世界です。しっかりとした後ろ盾が必要なのです。それもカツラギ様の秘密をしっかり、守ることができる口の堅い味方が」
宰相は一息ついてこう話す。
「そうなれば、兄さん自らが後ろ盾になる必要があるのです。この国の王妃だとすれば、誰も文句はいえないでしょう。さらに、カツラギ様は天女だと誤解されている。王と女神。立場的に言えば、つり合いがとれています」
「しかし」
「でも」
「別に本当に、結婚しなくてもいいのです。あくまで、形式的な問題です。契約結婚とでも考えてください」
「「契約結婚?」」
「そうです。陛下は、カツラギ様を守るために結婚する。そうすることで、カツラギ様をわたしたちの世界に召還してしまったことへの償いをするのです。陛下にはその責任があります」
宰相はかしこまった言葉で、陛下を一気に説得してしまった。
「うむ」
「でも、わたしからは、みなさんになにもできませんよ。異能だってもっていません。契約というのに、これでは釣り合いが取れないのではないですか」
「いえ、カツラギ様はその立場にいていただくだけで、価値があります。今、わが国に女神様が降臨したといううわさは、他国にまで伝わっている。その女神様が、国王妃となったと知れば、国中、いや世界中が我が国の王に心服することになるでしょう。それほどまでに、カツラギ様はこの世界では有名人となってしまっているのです」
「うう……」
ダメだ。年下なのに、口ではかなわない。さすがに国家の宰相を務めているだけはある。
「悪い輩が、カツラギ様を狙うことだってあるでしょう。しかし、わが国の王の妻と言えば、そうはいきません。さらに、兄は国内だけでなく、世界的に見ても5本の指には入るといわれている魔術師です。最高のボディーガードですよ」
「……」
なにも言い返せない。王様は若いのに、そんなすごい人なのか。
「もっと、お互いをしりたいのですが……」
わたしは辛うじて反論を口にした。
「で、あれば、来週の王の視察に同行してはいかがですか?。早急に結論をだすことではありませんよ」
「わ、わかりました」