第71話 帰城
わたしたちは順調に帰路につき、予定通りに帰城した。
宰相さんはわたしたちの顔をみて、ニコニコしていた。
あのタヌキめ。
食事を簡単に済ませて、わたしは早めに寝室に籠った。
旅疲れという名目で……
そして、ベットにダイブして、潜り込む。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
全力でゴロゴロした。
これが、わたしが溜めに溜めたストレスだ。
そして、旅行を思いだす。
手をつないでのお出かけ。
みんなに見られながらのアーン。
混浴。
エトセトラ、エトセトラ。
わたしの黒歴史のページが何ページ書かれたのだろうか。
そして、一番の黒歴史は……。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
あの暗黒史を思いだした。
やってはいけないこと。
今までの関係を壊してしまうあの禁断の行為。
告白を……。
「王妃様、大丈夫ですか」
扉から声が聞こえてきた。きっと、リリイさんだ。
大声で叫びすぎたので、廊下にまで響いてしまった。
とても恥ずかしい。
「大丈夫ですよ、ありがとう」
あわてて、取り繕うわたし。何が「ありがとう」なのか自分でもよくわからない。
「そうですか。では、失礼します」
なんとか、ごまかせたようだ。
でも、今日は一晩中ゴロゴロするだろう。
叫んでも、転がっても、物足りない。
どこまで、わたしは彼のことが好きなんだ。ヤレヤレと首を振る。
「虚しい」
彼の答えがわかるのは、来月。あと、3週間以上さきのことだ。
「遠いな」
答えがもらえる時間も、わたしと彼の関係も。
しょうがないので、スマホを取りだす。
充電は依然として、90%台を維持していた。
ゲームをするわけでもなく、即座にアルバムを開く。
わたしと彼のツーショットが記録されているアルバムを……。
今日は両陛下が帰ってきた。
なのに、ふたりの様子がどこかおかしい。
ソワソワしている。きっと宰相様が、なにかやったんだろう。あのタヌキさんは、本当に腹黒い。
そんな風に思っていると、王妃様の部屋から大きな声がしてきた。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
わたしは何事かと思って、王妃様に向かって話しかけた。
「王妃様、大丈夫ですか」
「え、リリイさん??」
すっとぼけた声が返ってきた。
あったぶん大丈夫だ。わたしはそう思った。
「大丈夫です、ありがとう」
なにが「ありがとう」なのだろうか?
よくわからないが大丈夫そうなので、わたしは安心した。
数時間後、わたしは別の部屋で同じ声を聞くことになる。




