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第68話 休みの終わり

「「「ごちそうさまでした」」」

 わたしたちは口をそろえてそう言った。

 私たち夫婦と村長さん三人の食卓。

 村長さんはいまや王様の親代わりみたいなものだろうから、幸せな食卓だ。


「はじめて食べましたが、とても美味しかったです。味付けも奥が深くて」

「こんな美味しい料理をガールフレンドが作ってくれるなんて、本当に長生きするもんじゃわい」

 発言内容が、老若逆のような気がする。

「本当はこれに味噌汁というスープをつけるのが、ベストなんですけどね」

 さすがに、味噌は手にいれることはできなかった。

 もしかしたら、魔大陸に行けばあるのかもしれない。

 そんな贅沢なことを考えながら、わたしは微笑んだ。

 大好きな人に、自分の国の伝統料理を美味しいと言ってもらえた。こんなに幸せなことはない。

 それだけで、胸がいっぱいだった。


「それも食べてみたいですね」

「うむ、うむ」

 ふたりも満足げにうなづく。

 よく考えれば、ふたりともわたしにとっては命の恩人だ。

 もっと感謝しなくてはいけない。

 わたしの居場所をくれたふたりだ。

 前の世界では、なかった居場所を……。

 そう思うと、少しだけ目が潤む。


「さて、わしは少し散歩でもしてくるかの」

「こんな夜中なのにですか?」

「ちょっと空気を読もうかと思っての」

 年甲斐もなく、いたずら少年のような目でわたしたちを見てくる。

 このセクハラ爺め。

「師匠、カツラギさんに失礼ですよ」

 王様が怒った。

「なんじゃ、お主。まだ、綾ちゃんに手を出していないのか? 結婚してもうすぐ半年じゃろ。あきれたわい。本当に甲斐性がない馬鹿弟子じゃ」

 わたしたちは顔を見合わせて、真っ赤になる。

 このバカンスで、いったい何度目だろう。

 宰相さん、村長さんにいつもはずかしめられている。


「ななな、なにを言っているんですか、師匠。だいたい、わたしたちは夫婦ですけど、夫婦じゃ……」

 王様は慌てて反論する。

 その様子が、まるで……。

「本当に頑固な弟子じゃ。いいか、人生の大先輩として言わせてもらうぞ」

 村長さんはそんな弟子を呆れている。


「もっと、素直になれ。そんなんじゃ、一生後悔することになるぞ」

 後悔……。

 その言葉がわたしの胸にも突き刺さる。

 

「ちゃんと、言葉にしないと伝わらないこともあるんだからな」

 村長さんがはじめてまともなことを言っているような気がする。

「いつの間にか、綾ちゃんがわしにぞっこんでも知らんからな」

 あっ、やっぱり違った。

 ちゃんとしていたら、かっこいいのに……。

 そう言い残し、村長さんは散歩にいった。

 わたしたちだけが取り残された。





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