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第66話  市場

 今日はバカンスの最終日。

 明日は一日がかりで帰るのでゆっくりできるのも今日までだ。

 三日間の短い休日だったが、本当に色々あった。

 そして、色々あればあるほど、この世界の不思議なところもわかってくる。

 どうして、この世界にわたしは呼ばれたのか?

 日本と魔大陸の関係は?

 この世界の歴史はどこまでが真実なのか?

 わからないところばかりだった。

 たぶん、魔大陸には行かなくてはいけないだろう。

 そこに何かあるような気がする。

 それを知ってしまうのが怖くもある。

 契約結婚という特異な形ではあるが、自分が作ることができた居場所にいられなくなってしまいそうで……。


 せっかくの休みなんだから、考え込むのはやめよう。

 わたしはそう決心した。

 わからないことを考え続けたら、ネガティブな気持ちになってしまう。

 今日は王様と市場を見に行くことになっている。

 今日もいい天気だった。


「うわ~大きい魚がいっぱいですね」

 海といえば魚。

 魚といえば市場。

 今日の夕食はわたしが作ることになっているので、食材を買いに来たのだ。

 別荘のコック長さん行きつけの市場に。

 異世界の魚だから、もしかして深海魚みたいなものがたくさん並んでいるのではないかと心配したが、日本の魚とそうは変わらなかった。

 干し魚の屋台なども充実している。

 とりあえず、イカやマグロなどの切り身を買うことにした。

 米も別荘に買い置きが あるらしい。

 ちなみに今回の市場でのお買い物はお忍びだ。

 国王と王妃が来ているなんてわかったらパニックになってしまう。

 他人にばれないように買い物をするのがスリルがある。

 お忍びの副産物でカジュアルな服を着た王様をみることができて少し感動した。

 まあ、写真もないこの世界では、わたしたちの身元がばれるなんて心配はほとんどないのだけれど。


 だから、わたしは調子に乗ってこうささやいた。

「王様、こんなぎこちがないと、怪しまれちゃいますよ。手ぐらい握りませんか?」

 もちろん、わたしがそうしたいのだ。

「そ、そうですね。そのほうがいいですね」

 さらにぎこちなくなる彼。

 いつもからかってばかりな気がする。

「隙あり」

 わたしは思いっきり彼の腕をつかんだ。

 彼の腕と体のあいだに、手を入れる。

「カツラギさん、手をつなぐんじゃ……」

「恋人同士はこうやるんですよ」

「でも、これじゃあ、体が……」

「体が?」

 わかっていて、あえてわたしは聞く。

「なんでもないです」

 王様は観念した。

 ヘタレたなとわたしはにっこりする。

「じゃあ、あっちを見に行きましょうよ」

 そう言ってわたしは王様を誘導した。

 わたしたちの体は、かなり密着している。

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