表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/95

第5話 はじまり

 あらためて、わたしは自己紹介をはじめる。

「わたしは、葛城綾といいます。28歳です。日本という国に住んでいました。そこで建築関係の仕事をしていました」

「女性なのに、建築関係ですか。それはすごい」

 王様は感嘆の声をあげる。

「主に、設計など力が必要ではない部門でしたので……」

 わたしはそう説明した。詳しい話は、世界が違うのであまりしないほうがいいだろう。

「なるほど。それでどうして、空から? 」

 宰相は誰もが思う疑問を突き付けた。わたしはワインを一口飲み答える。

「わたしにもよくわからないのです。仕事が終わった後、帰宅途中にいきなり気を失ってしまって」

「気がついたら、空にいたと? 」

 王様は的確に話を理解してくれる。


「そうです。そして、今に至ります。だから、わたしは女神なんかじゃないんです。単なる人間なんです」

「そうでしたか……」

「もしかすると、あの雨ごいの魔法が、こことは違う別世界に干渉して、カツラギ様をこちらに連れてきてしまったのかもしれませんね」

「雨ごいの魔法?」

「昨日は、豊作を願う祭りが開かれていまして、そこで王であるわたしが、王家のみに伝わる秘術、雨ごいの魔法を使ったのです」

「雨ごいの魔法は、世界の理を簡単に捻じ曲げてしまうほど、強力な魔法です。わが国でも、年に1度の豊作祭の時にしか使用は許可されていないものなのです」

 兄弟は続けて、答えてくれた。

「では、その魔法の影響で、わたしは別の世界に召喚されてしまったということですか」

「おそらく」

 王は神妙な顔でそう答えた。

「もとの世界に戻る手段は? 」

 ふたりは首を横に振る。

「そう、ですか……」

 死にたいと思っていたほど、嫌いな世界だった。でも、もう戻れないと思うと、どうしようもなく寂しい。見知らぬ世界で、わたしはどうなってしまうのだろうか。

不安で胸が押しつぶされそうになる。


「わたしはこのあとどうすれば……」

 思わず、不安が口から出てしまった。

「大変申し訳ございません」

 王様が謝ってくれる。彼に非がないのはわかっている。

「そんな。事故みたいなものですし……」

 わたしはあわててフォローしようとするが、言葉がでてこなかった。

「われわれで、できる限りのことはさせていただきます」

 王様はそう言ってくれた。その言葉がとても嬉しかった。向こうの世界ではもうわたしは必要とされていない。そんなわたしに彼は親身に寄り添ってくれる。


「であれば、兄さん。そして、カツラギ様。おふたりが結婚なさってはいかがでしょう? 」


 宰相さんは予想の斜め上の提案をしてきた。ただ、ここからわたしたちの運命ははじまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ