第55話 海鮮
わたしたちは夕食のテーブルについた。
こちらに来てから、あまり海鮮料理を食べていなかったことに気がつく。
そのことを王様に聞いたら、
「鮮度は氷魔法で維持できるんですが、海から城下町への輸送が大変で、生魚は貴重品なんです」
という答えが返ってきた。
たしかに、夕食にでてくる海産物は、塩漬けされた魚や干物を調理したものばかりだった。
「だから、鮮魚を食べられるのは、一年でここに来た時だけの贅沢なんです」
王様は、はにかみながらそう言った。
たぶん、やろうと思えば、いくらでも贅沢できる立場のひとなのに……。
なるべく、庶民の目線にいたいんだろうなと思う。
ほんとうに、そういうところが……。
わたしは大好きなんだと思う。
「「それでは、乾杯」」
わたしたちは、いつもの赤ワインではなく、白ワインで乾杯する。
疲れた体にワインが染みる。
美味しかった。
食前酒を飲んでいると、料理が運ばれてきた。
白身魚とイカやエビなどの海産物が、ハーブなどと一緒に煮込まれた料理。
ブイヤベースみたいなものだろうか。
魚介類のうまみが、濃縮されたスープだった。
「美味しい」
「よかった」
いつものように、短い感想を交換する。
久しぶりの海鮮料理はとても美味しかった。
パエリア、アクアパッツァが次々と運ばれてくる。
王様と一緒になって、夢中になって食べた。
長距離移動で疲れた体に、新鮮な材料で作られた料理は最高に美味しかった。
ふたりでワインを飲み終わって、一息つく。
「幸せです」
「わたしもです」
いつもは言わないような軽口だった。
王宮から離れたせいか、気をつかう必要もなく本当にゆっくりできた。
「それはよかった」
執事さんだった。
「コック長も喜びますよ。一年に一度しか陛下に食べてもらえないので、今日は朝から張り切っていましたからね」
さきほど、料理を運んできた筋肉マッチョなコック長さんが……。
朝からルンルンで、準備をしていたという図を想像して、少しおもしろかった。
「それと、宰相様からの手紙で、おふたりの食事が終わったら、これを渡しておいてくださいといわれております。ご確認ください」
嫌な予感がした。
そして、それは的中することになる。
執事さんの手にはいつもの封筒があった。
そう、今日何度も私たちの前にあらわれた茶色の悪魔が……。
そして、悪魔はわたしたちにこうつぶやくのだ。
「ふたりで混浴温泉にはいること」と……。




