第49話 馬車
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
馬車は王城を出て、道を進んでいく。
外は、雲一つない青空だった。
一方、馬車の中のわたしたちは……。
「……」
「……」
お通夜状態だった。
出口間際での、喧騒によってライフポイントにダイレクトアタックされたわたしたちは、まだ顔が赤くなっている。
「きゃー、ふたりとも馬車の中で、手をつないでるわ。ラブラブ~」
とか
「やっぱり、新婚さんだものね。仲良しでうらやましいわ~」
とか
「ふたりとも初々しくて癒されるわ~」
などなど。
さきほどの黄色い声援を思いだして、メンタルがフルボッコ状態のわたしたちだった。
もう悶えて、床でゴロゴロしたい。
でも、それはできない。物理的にできないのだ……。
「……」
「……」
お互いに気まずくて、会話もままならない。
宰相さんの策略はいつものようにわたしたちに深刻なダメージをくらわせた。
これがあと封筒の数だけある。
さきが思いやられる。
「今日は、どんなことしますか?」
わたしは、この雰囲気に耐えきれず、口火を切った。
いつもとは、逆の構図だ。
「えっ」
王様は不意をつかれたのか、変な声をあげた。
ふふとわたしは笑いだす。
この旦那様は、いつも大事なところで、どこかぬけている。
「別荘で、ですよ」
「ああ、別荘で……」
なにを勘違いしたのだろうか。
王様の顔はもっと赤くなった。
「そうですね。今日は夕方くらいにつくと思いますので、お風呂に入って寝てしまいましょう。本格的にくつろぐのは明日以降ということで」
「わかりました。楽しみですね。別荘!どんなところですか?」
「そうですね。代々の王が使っていた静養地で、海の近くで風光明媚なところですよ。そこまで、大きくはないのですが、温泉もありますし」
「いいですね~温泉も、海も楽しみです」
「気をつかわなくていいので、ふたりでゆっくりしましょう」
ふたりで……。ゆっくり……。
この言葉に深い意味がないとは、わかっているのにドキっとしてしまう。
「そうですね。せっかくのふたりっきりですからね」
わたしは、特定のことばを強調した。
少しいじわるだったかもしれない。
王様の顔まで、真っ赤になっていく。
今日はふたりとも、黒歴史をどんどん作っている気がする。
今夜はたぶん恥ずかしくて、眠れないだろうな……
そう、後悔しながら、わたしたちは体温が上がることをお互いに認識した。
なぜなら……
城下町からずっとわたしたちの指は握られ続けていたのだから……




