第４６話 スマホ
「えっ、どうして……」
ありえない。どうしてスマホの電源が……。いくらスリープモードだったからって、まだ充電があるのは変だ。
腕に鳥肌がたつのを感じる。
そして、パスワードの入力画面が終わると、さらに衝撃的な結果がわたしには待っていた。
「充電、残り９８％……」
落とした時の衝撃で、何か故障したのだろうか。
おかしな数字だった。この世界に来て、２カ月も経っているのに……。９８％……。
日付のほうは、画面が割れてしまっているため確認はできなかった。
試しに、両親に電話をかけてみる。案の定、圏外だった。もちろん、インターネットにも繋がらない。
写真データなどは無事のようだ。前の世界のデータがここでも使えるということにちょっとした恐怖をおぼえた。
なんだか、背筋が冷たくなる。
考えてもわからないとわかっているのに、考えてしまう。
どうして、わたしはこの世界に転移してしまったのか……
いったいこの世界と元の世界にはどんな関係があるのだろうか……
突然、わたしを襲ってきたフードの男はなにが目的なのか……
どうしてスマホの充電は生きているのか……
すべてがわからないことだらけだった。
この世界に住めば住むほど、わたしはこの世界がわからなくなる。
わからないということが、とても不安だった。前の世界なら、すぐに検索して答えがわかったのに……。
この先、わたしはどうなってしまうのだろう？将来が不安になる。
近くのベットに寝ている王様の様子をうかがう。完全に寝ているようだ。
頼れるのはもう、この人しかいない。
そう思うと、少しだけ心が安らいだ。
月の光だけが、わたしと彼を見ている。
どんなに不安でも、彼はわたしを助けてくれる。
この前、助けてくれたことが、どうしようもなく嬉しかったし、特殊な関係でもわたしのためにプロポーズしてくれたことは本当に幸せだった。
いつもわたしのことを考えてくれる彼には感謝することばかりだ。
わたしは、彼になにか返すことができているのだろうか。
「……」
彼の吐息だけが、部屋に響いている。
彼はわたしのことをどう思っているのだろう。
彼がわたしのことをどう思っているかなんて一度も聞かせてもらっていない。
結婚式のときの謎のキスについても、真意は聞けずじまいだ。
「 」
わたしたちの関係で声にしてはいけないことを、言葉にしてしまった。
自然に声が出てしまった。
たぶん、これがわたしの本音なんだと思う。
わたしももう少し素直だったらよかったのに……
そう思いつつ、わたしはスマホで陛下の顔を隠し撮りした。
