第45話 とある夜のふたり
「夕食、ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「喜んでもらえてよかったです」
わたしたちは、寝室で話していた。
宰相さんの謀略以来、おなじ部屋で眠ることが当たり前になってしまった。
ただ、ベットだけは別のものにしてもらった。少しだけ離して、ベットに入る。王様が同じベットで緊張してしまい、あんまり眠ることができなかったのだ。
わたしは酒を飲みすぎて、記憶がないまま寝てしまったのだけど…………。思いだしたくない黒歴史だ。
「あのポトフというスープが大好きになりました」
「よかった。母の得意料理なので、教わっておいて助かりました」
ありがとう。お母さん。
「いいですね。家族の思い出。少し憧れてしまいます」
「そうですよね」
家族に憧れる王様に少しだけドキっとしてまった。
「たまには、料理を作ってもらうのもいいですね。家族に料理を作ってもらったことなんて、もう10年以上なかったので……。とても嬉しかったですよ」
「本当によかった……」
こっちの世界に来たばかりの時は、王様は完璧超人だと思っていた。
でも、知れば知るほど、普通の人で……。
だから、いつも思う。
「王様はいままで、寂しくなかったんですか?」
聞いておいて、しまったと思った。つい口にでてしまった。
「そうですね~。確かに孤独感を感じたことはありますよ」
「……」
彼は失礼な質問なのに、誠実に答えてくれた。
「責任は重いし、先代の王はいきなりいなくなってしまったし……」
「だったら……」
王様は微笑を浮かべながら、うなづく。
「それでも、わたしは借りた恩を返さなければいけないんです」
「……」
なにも言い返せなかった。たぶん、わたしが言い返してはいけない問題だ。
「暗い話になってしまいましたね。ワインでも飲んで、話を変えましょう」
「はい」
強引に話を変えられてしまった。ふたりでいつものようにワインを飲み、そして眠る。
ここ数日、決まった部屋での過ごし方だった。
そして、夜はふけていく……。
更けて……
まったく眠れないのだ。
ワインを飲んで、別のベットに入ってあとは寝るだけというところで、すでに2時間以上経過しているはずだ。王様の吐息や寝返りの音にドキドキしてしまう自分がいた。
「くうううう」
彼を起こさないように、わたしは声を押し殺して叫んだ。どうしても眠れないのだ。
向こうの世界では、眠れないときはスマホをみて時間をつぶしたんだけど……。
そういえば、わたしのスマホってどうなっているんだろう?
一緒に落ちて来たバックのなかをごそごそする。
財布やアクセサリーといっしょにスマホはあった。
落下の衝撃で、画面は少し割れていた。
「電池切れているだろうな~」
こっちに来てから、もう2か月。普通なら電源なんて入らない。
軽い気持ちで、電源を入れてみる。ブラックアウトだった画面にピカッと光が入る。
「えっ……」
スマホは何の問題もなく起動したのだった……。




