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第37話 夜

「……」

「……」


 いま、結婚式を終えて、ラブラブの新婚夫婦の図がこれだ。広い部屋にふたりっきり。本棚には難しそうなぶ厚い本が並び、いくつかのシックな絵画が飾られている。さっきから、ずっと気まずい雰囲気が続いてしまっている。わたしたちは、またしても宰相さんにはめられてしまった。一回りも幼い少年に、からかわれ続ける大人たち。いい加減学習しろと言われてしまいそうだ。


 彼は最後にこう言った。

「王妃様のベットは、王様の部屋に移動させておきましたから、安心してください」

満面の笑みでこれである。恐ろしい子。


 そもそも、この関係もあの少年の一言からはじまったのだ。契約結婚という特殊な関係。まさに、わたしたちはお釈迦様の手の上の孫悟空状態。いつのまにか、王様の寝室には、もうひとつベットが運び込まれていた……。朝には無かったという証言まで添えられて。


 さらに、テーブルの上には、お酒とおつまみまで用意されていた。ナッツやドライフルーツなど、つまみのチョイスまで完璧だった……。もうやだ、あの未成年。


「とりあえず飲みましょうか」

 王様は雰囲気に耐えられず、そう言った。

「そうですね」

 わたしも飲まなきゃやっていけない気分だった。王様の本心もよくわからず、キスの振りをするはずだった挙式で突然、唇を奪われ、国内・国外の要人に笑顔を振る舞い、少年にはめられているばかりの自分に少し嫌気もさした。飲もう、そして飲んだくれよう。それしかない。少し色が薄いワインをわたしたちはグラスに注ぐ。王様と無理やり乾杯をして、わたしはグラスを一気に飲み干した。


「カツラギさん、ちょっと待って」

 という王様の忠告も聞かずに……。


 喉に猛烈な熱さが襲いかかる。アルコールの味が口いっぱいに広がった。

「それ、ブランデーなんで、薄めたほうが……」

 蒸留酒の強烈な味と、酔いが一気に回ってきた。

「(それは早めに言ってほしかったな)」

 記憶にあるのはそれが最後だった。疲れていたせいか、わたしは急激に記憶を失ってしまった。

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