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第2話 祭

「それではみなのも、これより豊作祭を執りおこなう」


 わたしは、祭りの開催を宣言した。1年に3回おこなう大祭の1つである豊作祭。春に種付けした作物が豊作となるように祈願し、恵みの雨を天に乞う祭りだ。農業国である我が国の最も重要な伝統行事といえる。この国の王であるわたしは全力をもって祈願し、雨を求める。天はそれに応えて、恵みを雨をもたらす。そして、民はそれを喜び、宴を開き歌い踊り合うのだ。


 王であるわたしは神の台座において魔法陣を組み、呪文を唱え始める。

「エロイム、エッサイム」

 古来より伝わる口上をわたしは続ける。天候変化魔法は古来より、王家のみに伝わる秘術である。民衆はわたしのつぶやきを固唾をのんで見守っていた。


 言い伝え通り、魔法陣より上空に向かい光が放たれる。無事に今回も成功したようだ。わたしは、祭りの成功を確信し、安堵した。


「なんだ、あれは? 」

 民の1人が大声をあげた。神聖な儀式の場において、本来であれば許されざるおこないだ。

「上だ。上から……」

 という声が鳴り響く。まさか、失敗したのか?おれは上空を見上げた。


 だれかが上空から落ちてくる。女性だ。上空から落下してくるというのに、彼女はまるで天女のようにゆるやかで、気品に満ちた姿をしている。


「女神さまだ」

 だれかがそうつぶやいた。

「美しい」

 本当に優雅だった。まるで、何か包まれてくるかのように、その光景は神聖なオーラを放っていた。


 魔法陣の中心にいるわたしに向かって、彼女は降り立ってくる。すべてが美しく、そして儚かった。わたしは、彼女を腕に迎え入れる姿勢になった。そして、彼女はあたかもそれが自然であるかのように、わたしの腕に包みこまれるかのように落下してきた。彼女のぬくもりを、わたしは腕で感じる。


 その瞬間、晴天であった空は、曇をつくり、恵みの水をもたらす。すべてが仕組まれたかのように完璧だった。

「大丈夫ですか。お怪我はありませんか?」

 わたしは彼女に問いかける。彼女は微笑をうかべて答えるのだった。

「はい、だいじょうぶです」と。

 彼女の顔には慈愛が満ちていた。

「よかった」


 彼女は民衆から顔をそむけるように、私の胸に顔をあずけた。そして、泣いていたのだ。雨とも涙ともわからないものがわたしの服を濡らし続けていた。


 奇跡ははじまった。

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