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第34話 当日

 ついに当日がきた。そう、結婚式の当日が……。


 結局、昨日はあまり眠れなかった。そして、準備のため朝は5時起きだ。ドレスの着付け、ヘアメイク、そして、お化粧と……。てんやわんやで物事は進んでいった。


「カツラギ様、終わりましたよ」

 少しウトウトしていたら、メイクをしてくれていた女性が起こしてくれた。

「ありがとうございます。昨日、緊張であまり眠れなくて……」

「そうですよね。一生に一度のことですから」

「はい」

「みんな楽しみに待っていますよ。がんばってくださいね」

「ありがとうございます」

 その言葉に罪悪感を感じる。みんなをだましているのではないかと、心が痛かった。


「では、この鏡を使って、確認してくださいね」

 鏡を覗き込むと……


「うわあ、きれい」

 自分とは思えない自分がそこにいた。社畜時代の自分に見せたら、これが自分だとは信じてくれないかもしれない。

「とてもお似合いですよ」

「ありがとうございます」

 バリバリ働いていたときは、忙しすぎて、あまりお化粧に力を入れられなかった。続く残業で、目には熊が常駐していた。あのころは、まさかこんなことになるとは思っていなかった。いや、思っていたら、よっぽどやばい人だが……。

「では、新郎様を呼んできますね」

「えっ……」

「だって、一番最初にみたいに決まっているじゃないですか。カツラギ様だって一番最初に見てもらいたいですよね?」

「は、い」

「少し待っていてくださいね」

 彼女はあっという間に行ってしまった。


 わたしは、ひとりで取り残される。さっきのメイクさんへの答えに本音が含まれていたと後から気がついた……。

「こちらでございます、陛下」

 ひとりの沈黙はすぐに崩壊した。

「それでは、ふたりでごゆっくり。時間になったら、お呼びしますね」


 少し恥ずかしいので、扉の方に背を向ける。すぐに顔をむけることになるだろうに、無駄な抵抗をしてみる。

「おつかれさまです。カツラギさん」

「ありがとうございます」

 わたしはまだ、顔を見せないようにする。なんだか気恥ずかしい。


「あの?」

「はい」

「顔を見せてくださいよ」

「ごめんなさい。少し恥ずかしくて」

そして、わたしは観念する。ゆっくり、顔を陛下の前に向けた。


「……」

「……」


ふたりは無言になる。それは気まずい無言ではなく、ふたりだけの世界がそこにあるという無言で……。簡単に言えば、お互いがお互いに見とれていたんだと思う。


 本番まであと1時間……。

 

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