第31話 挙式前夜(前編)
それからの1カ月は、あっという間に進んだ。結婚式の準備のためだ。宰相さんを中心に、国を挙げての一大イベント。それを1月で準備しなくてはいけないのだ。
わたしも覚えることが山ほどあった。宮廷内でのマナー、式での振る舞い方などなど。新しいことをたくさん覚えなくてはいけなかった。唯一の救いは、ほとんどが王様を中心としたイベントであることだ。わたしは、微笑みながら、王様にリードしてもらえば良いらしい。ウェディングドレスの着付けなど、まさか異世界でやるとは思いもしなかった。こっちに来てから、小さいころの願いが叶ってばかりいる。
王様とはなるべく一緒にいることにした。食事の時、余暇の時間。わたしたちはいろんなことを話した。好きな音楽、演劇、小説のあらすじ。お互いの世界をよく知らないからか、話はとても弾んだ。そして、少しずつ納得するのだ。
「ああ、本当にわたしはこの人と結婚するんだな」と。
宰相さんはしきりに同室で眠るように勧めてきたが、わたしたちは取り合わなかった。お互い奥手で、恥ずかしい。そして、あくまで“契約”結婚なのだ。超えてはいけない一線というものが存在する。
それでも、わたしは彼のことを気になりだしていたんだと思う。一緒にお茶を飲んだとき、食事をしたとき、そしてお話をするとき。わたしは無意識で彼のことを見つめてしまっていた。でも、それを自覚してはいけないのだ。
彼にときめきかけた時、わたしは自分にいい聞かせる。
(彼を本気で好きになってはいけない)と……。魔法の言葉だ。これがわたしと陛下の距離感を適切なものにしてくれている。そして、わたしも自分の心にブレーキをかけることができた。
あの会議の後、民衆にわたしたちの婚約は発表された。城下町では大騒ぎだったらしい。踊りだすもの、酒を飲みどんちゃん騒ぎするもの。そして、王様ファンクラブの悲鳴。まさに、カオスだったと、護衛の人は言っていた。
そして、その報告を聞くと、胸が締め付けられる。わたしなんかが、彼と結婚してもいいのだろうか。わたしみたいな、社会から否定されたものが、こんな立派なひとの妻になってもいいのかな。わたしは悩み続けた。
結婚式まであと1週間。




