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第28話 弟

「長旅お疲れ様でした」

 わたしと宰相さんは長い廊下を歩いている。そこは赤じゅうたんが敷いてあって、シックなお城の廊下。

「ありがとうございます」

「楽しかったですか?」

「いろいろありましたが、とても楽しかったです。村長さんに圧倒されました」

 わたしは本音を話す。

「でしょう。あの人が伝説の英雄と言われても絶対に信じられません」

宰相さんは笑顔でそう答えた。この人はいつもキリっとしているが、笑顔だけは年相応の顔になる。

「ハハハハ」


 わたしたちはひとつの部屋の前に止まった。

「こちらがカツラギ様のお部屋です」そう言い彼は扉を開ける。

「うわあ」

 中にはお姫様の部屋のような世界が広がっていた。小さいころ夢見た世界だ。大きな鏡、可愛い調度品、天井があるベット……。ん、ベット?


 いや、部屋にベットがあるのは普通のことだろう。それはいい。問題は……

「あのベット少し大きすぎませんか?」

 明らかに一人用ではない。キングサイズといっても、余裕で3、4人は眠れそうだ。

「ああ、それはそうですよ。だって……」

「だって?」

 嫌な予感がする。

「陛下が一緒に寝るようになるじゃないですか」

 それは的中した。この世界の人は、セクハラという概念がないのか。村長さんもセクハラ爺と言われていたし。あっ、セクハラっていう概念あるじゃん。などという下手なツッコミを入れつつわたしは大声で叫ぶ。

「いやいやいや、それはまだ早すぎますよ」

「だって、結婚することになったんですよね」

 宰相さんは悪戯好きな笑顔でそう言った。あっ、この人確信犯だ。わたしはそう直感した。

「契約結婚ってあなたが言いだしたんでしょ。あくまで、契約ですよ。け・い・や・く」

「頑なですね。そういうところ、兄とそっくりです」

「せめて、ベットは2つにしてください。そうしないと、恥ずか死んじゃいます」

「恥ずか死ぬ?」

「いいから、わかりましたね。宰相さん!」

「はい、わかりました」彼は笑顔でそう応じた。

(このひと、絶対にわたしをからかっているよ)


「ふう~」

 わたしはツッコミ疲れて、ため息をつく。

「ありがとうございます」

 宰相さんは急にまじめな口調になった。

「なにがですか?」

「兄のことを受け入れてくださってです」

「ああ」

「兄は本当に不器用なひとなんです。村長さんから聞いていますよね? 義理の弟のために、すべてを投げ出すつもりですし」

「ええ。でも、そこがお兄さんのよいところなんでしょ」

「はい、大好きな自慢の兄です。だから、兄のこと、よろしくお願いします」

「はい、任されました」

 わたしはそう断言した。

「では、わたしは仕事があるので、これで。あっ、そうそうカツラギ様」

「なんですか?」

「ベットにふたりで寝るのは“まだ”早いんですよね。それは将来的にあり得ると考えていいんですか?」

「……」

 顔が真っ赤になるのを感じた。とても体が熱かった。

「野暮なこと聞いてしまいましたね。それではごゆっくり」

 わたしは年下の男の子にいいようにからかわれてしまった……。窓から見える夕日はとても綺麗だった。




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