第27話 居城
門をくぐると、民衆は一気に馬車を取り囲んだ。
「王様が帰ってきたぞ」
「きゃー、王様」
「女神様、こっち向いて」
人生でここまで黄色い歓声をあびたことはなかった。わたしは少しきょどりながら、王様に話しかける。
「すごい人気ですね」
「半分は、カツラギさんへの声援ですよ」
「あんまりからかわないでください……」
「本音です」
馬車は時間をかけて、城へと向かう。窓から見える風景は、まるで中世ヨーロッパのようだった。
「うわー」
思わず、子どものような声をあげてしまう。
「珍しいですか?」
「はい、すごいです。まるで、おとぎ話の世界みたい……」
「カツラギさんが住んでいた世界もみてみたいです」
「きっと、驚くと思いますよ」
馬車は王城に到着した。
「長旅、おつかれまです」
さきに降りた王様はそう言って、わたしの手を引いてくれる。少しだけドキっとした。
「ありがとうございます……」
わたしは少しかすれる声でそう返すのが精一杯だった。
「さて、いきましょうか」
そういうと王様は、城の中にむかい歩き出した。わたしも後に続く。兵士たちは整列して、わたしたちを出迎えてくれた。本当におとぎ話のような世界だった。小さいころに憧れた世界がそこには広がっていた。
「玉座は3階です。そんなにかしこまらなくていいですよ」
彼はこっそり教えてくれる。たぶん、わたしはあまりの緊張で、ロボットダンスのような動きをしていたのだと思う。
階段を優雅にのぼると、広間があらわれた。奥に玉座が見える。
「お帰りなさいませ。陛下」
居並ぶ者たちが、そう言い頭を下げる。彼が本当に王様だったと実感した瞬間だった。わたしたちは玉座にむかって進む。
「お待ちしておりました、陛下」
玉座の横には、宰相さんがいた。
「留守中はありがとう。なにか問題は?」
「とくには。一応、報告書でわたしが決裁したことをまとめているので、ご確認ください」
「うむ」
「それから……」
宰相さんはわたしたちを見て、怪しい笑いを浮かべた。
「陛下のほうはうまく事が運びましたか?」
ふたりにしかわからないように、小声でそういった。同時に赤くなるわたしたち。
「なるほど。その反応でわかりました。では、カツラギ様の居室を用意してありますので、ご案内してきますね。兄上」
(すべては計画どおりですか? 宰相さん……)




