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第26話 塔

 わたしたちは無言で馬車に乗っていた。これがさきほど結婚が決まった男女だとは誰も思わないだろう。わたしだってそうだ。とても気まずい雰囲気の中でわたしたちは、終始無言だった。


 なぜなら、気恥ずかしいのだ。わたしは、安易にプロポーズを受けてしまったことについて。たぶん、彼は最低のプロポーズをしてしまったことについて負い目を感じる。まさに、早すぎたマリッジブルー状態だ。どうしてこうなった……。宰相さんにはなんて話そうか。そんなことを考えながら、わたしたちは王都へとむかっていく。


「カツラギさん、王都がみえてきましたよ」

 彼はこの雰囲気を改善するために、口を開く。

「あれが、王都ですか!」

 わたしもそれにならう。お互いに目は合わせない。いや、合わせられない。だって、恥ずかしいから……。そんな、ギクシャクした関係にたいして、わたしは景色に救いを求めた。そこには、大自然が広がっていて……。


「王様。あれはなんですか」

 わたしの目に留まったのは、自然豊かな風景ではなく、川や田んぼでもなかった。その中に不自然にポツンとたたずむ1つの建築物だった。それはなにか白い金属のようなものが幾重にもなって、空へと向かってそびえたっていた。しかし、その塔のようなものは、途中で折れてしまっている。金属は錆び付き、ボロボロだった。

「ああ、あれはバルベの塔ですよ」

「バルベの塔?」

 まるで、聖書にでてくるかのような名前だ。

「そうです。昔、人類は神さまに挑戦しました。愚かな人類は、神さまの権威を超えようとして、高い塔を建築しようとしたのです。しかし、それは神の怒りをかってしまい、雷によって焼失した。あれは、その塔の名残と言われているそうです」

「わたしの世界にも、似た話がありました」

 もしかすると、この世界と私の世界は繋がっているのかもしれない。

「そうなんですか。まあ、実際のところ、あくまで伝説だけで、本当のところはよくわからないんです。未知の材料が使われているそうです」


 そんなことをふと考えていると王様は緊張してかちんこちんになりながらわたしに話しかけてきた。

「それはそうと、カツラギさん。あの、その、ケ、ケッ……」

「ああ、結婚の件ですね」わたしは助け舟をだす。

「はい、そうです。その件について、なるべく早めに、皆に伝えなくてはいけないと思っています。

「そうですね」

「それで、えっと」

「はい」わたしは真摯な目で彼を見つめなおす。

「本当にいいんですか? 形式だけとはいっても……」

「陛下。女に恥をかかせないでください。わたしの覚悟はさきほど伝えたはずです」

 王様はきっと普通に結婚したら、尻にしかれるタイプだ。わたしはクスリとそう思った。

「ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ」


 馬車は王都の門をくぐりはじめていた。



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