第1話 落下
目がさめた時、私は……
<空>にいた。そこはとても青くて、太陽が眩しい。雲一つない晴天。ぐるんと回転すると、そこは緑と茶色に覆われた美しい大地。
わたしは地面に向かってゆっくりと落ちている。さっきまでここは駅だったはずだ。でも、今、ここは大空で、わたしは地面にむかって落下している。なにが起きたかわからないだろうが、わたしにもわからない。そんなネットスラングまで、思いだせないほど、わたしは動揺していた。
上空から落下しているというのに、その速度はゆっくりだ。わたしは本当に地面に向かって落下しているのだろうか? それとも、走馬灯のようなものなのか。どちらかはわからない。でも、死へと向かっているというのはわかった。
「いやだ、まだ死にたくない」
さきほどまで思っていたのとは、真逆の感情が湧き出てくる。生きたい。生きたい。生きたい。さっきまでの自分はなんと愚かだったのだろう。そんな後悔でいっぱいだった。
そんなわたしを光が包んだ。なぞの光だった。それははるか下のほうから上に向けられ放たれたものだった。あたたかさを持った光に包まれたわたしは意識を失った。ただ、その光はなぜか安心できた。
「うおおおおおおおおおおおお」
「女神様だあああああああああ」
「奇跡だ。奇跡が起きたんだ」
「うつくしい」
わたしは地面を揺るがすような大歓声によって目がさめた。おそる、おそるわたしは目を開ける。ここは天国だろうか?
多くの人がわたしをみている。何人いるのかすらわからない。ライブ会場のステージから観客を見ている気分だ。拝むような姿勢のひと。涙を浮かべる人もいる。なにがおきたんだろう。不思議な状況だ。
ぽたぽたと雨が降ってきた。天国にも雨ってあるんだな。そんな変な感想が湧き出てきた。雨が冷たくて気持ちよい。少しずつ意識が覚醒してくる。
そこで、わたしは気がついた。背中にぬくもりを感じるのだ。だれかに御姫様だっこをされているような感じだ。
顔をあげると、そこには日焼けしたイケメンがいた。
彼がわたしを抱きかかえてくれているらしい。
「大丈夫ですか。お怪我はありませんか?」
彼は紳士的な声で気遣ってくれた。
「はい、だいじょうぶです」
夢うつつの状態でわたしは答える。
「よかった」
彼はほほえみかけてくれた。その笑顔はとても温かいものだった。
そのぬくもりが、わたしを包んでくれていた。生きているというのはこういうことなのかもしれない。そんな気持ちが湧き出てくる。今までの無機質な社畜生活では感じたことがなかったものだった。
わたしは泣いた。なぜだか、涙があふれてきた。ここはどこかも考える余裕もなかった。
ただ、自分が生きているという実感できたことがうれしかった。
その日から、わたしの新しい運命ははじまった。