第24話 プロポーズ(後編)
ガタンゴトン、ガタンゴトン。馬車は王都へと向かっている。昨日は、結局ほとんど眠れなかった。王様も少し眠たそうだ。祭りが終わって、すぐに王都へ出戻りという弾丸スケジュール。
ふたりは旅の疲れからか、話もほとんどないまま1時間ほど馬車にゆられていた。
「そういえば、カツラギさんは王都もはじめてでしたね?」
王様は沈黙に耐えられなかったのか、わたしに話しかけてきた。
「そうですね。目がさめてから、すぐにイースト村に来てしまったので、まだ行ったことはないです」
「王都はあの村とは違って、かなりにぎやかですから、きっとビックリしますよ」
「それは楽しみです」
「……」
「……」
すぐにふたりの会話はなくなってしまった。少し気まずい。
「カツラギさん、少し寄り道してもいいですか?」
ふたりでウトウトしていたときに、王様は眠たそうな声でそういってきた。
「はい、いいですよ」
わたしもそう返す。
「天気もいいので、ここで帰ってしまうと少しもったいない気分なんです。たまには、仕事をさぼって、観光したいなと思いまして(笑)」
王様は少し恥ずかしそうに、そういった。その様子がとても可愛かった。
「ハーゼの湖に寄ってくれ」
王様は従者にそう指示した。とてもきれいな湖なんですよ、と彼は説明してくれた。
「着くまでに、あと1時間はかかるので、それまでは寝ていましょうか。わたしも少し寝不足気味で」
「そうですね」
わたしがそう答える前に、王様は眠りの世界に旅立ってしまった。わたしも即座にその世界に同行した。
「カツラギさん、着きましたよ。さあ、行きましょう」
王様がわたしを起こした。馬車の窓からは、とても大きな湖をみることができた。周りは森に囲まれている。自然豊かな場所だった。
「こういう大自然をみていると心が落ち着きますね」
「ええ、わたしも大好きなんです。30分ばかり、散歩しませんか」
「はい、ぜひとも」
ふたりで湖を散歩する。とても水が美しかった。陽の光が反射して、ピカピカと光っている。
「綺麗な湖ですね」
「はい、この水がこの国の農業を支えているんです。貴重な水源です」
「そうなんですか。でも、王様が寄り道したいなんてビックリしました」
「ハハハ。すいません。最近、忙しかったので、少し気分転換がしたかったんです」
「大事ですよね。気分転換」
「この自然を見ていると、重荷を降ろせそうでとても安らぐのです」
「……」わたしは彼が背負っている責任の重さを感じる。彼は手で水をすくいながら、わたしの方をじっとみてきた。
「カツラギさんは、向こうの世界で恋人はいなかったのですか?」
王様は突然、切り込んできた。
「と、とつぜん、どうしたんですか?」
わたしは驚いて咳きこむ。
「すいません、失礼な質問でしたか?」
彼の眼はとても誠実な色をしていた。
「いえ、ビックリしただけで。いませんよ。もう何年も好きなひとはいないんです」
<向こうの世界では>という言葉は省略されていた。
「なら、よかった」
王様は少し安心した顔になる。
「えっ?」
「カツラギさん」
「はい?」
「わたしと結婚してください」




