表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/95

第24話 プロポーズ(後編)

 ガタンゴトン、ガタンゴトン。馬車は王都へと向かっている。昨日は、結局ほとんど眠れなかった。王様も少し眠たそうだ。祭りが終わって、すぐに王都へ出戻りという弾丸スケジュール。


 ふたりは旅の疲れからか、話もほとんどないまま1時間ほど馬車にゆられていた。

「そういえば、カツラギさんは王都もはじめてでしたね?」

 王様は沈黙に耐えられなかったのか、わたしに話しかけてきた。

「そうですね。目がさめてから、すぐにイースト村に来てしまったので、まだ行ったことはないです」

「王都はあの村とは違って、かなりにぎやかですから、きっとビックリしますよ」

「それは楽しみです」

「……」

「……」

 すぐにふたりの会話はなくなってしまった。少し気まずい。


「カツラギさん、少し寄り道してもいいですか?」

 ふたりでウトウトしていたときに、王様は眠たそうな声でそういってきた。

「はい、いいですよ」

 わたしもそう返す。

「天気もいいので、ここで帰ってしまうと少しもったいない気分なんです。たまには、仕事をさぼって、観光したいなと思いまして(笑)」

 王様は少し恥ずかしそうに、そういった。その様子がとても可愛かった。


「ハーゼの湖に寄ってくれ」

 王様は従者にそう指示した。とてもきれいな湖なんですよ、と彼は説明してくれた。

「着くまでに、あと1時間はかかるので、それまでは寝ていましょうか。わたしも少し寝不足気味で」

「そうですね」

 わたしがそう答える前に、王様は眠りの世界に旅立ってしまった。わたしも即座にその世界に同行した。


「カツラギさん、着きましたよ。さあ、行きましょう」

 王様がわたしを起こした。馬車の窓からは、とても大きな湖をみることができた。周りは森に囲まれている。自然豊かな場所だった。


「こういう大自然をみていると心が落ち着きますね」

「ええ、わたしも大好きなんです。30分ばかり、散歩しませんか」

「はい、ぜひとも」


 ふたりで湖を散歩する。とても水が美しかった。陽の光が反射して、ピカピカと光っている。

「綺麗な湖ですね」

「はい、この水がこの国の農業を支えているんです。貴重な水源です」

「そうなんですか。でも、王様が寄り道したいなんてビックリしました」

「ハハハ。すいません。最近、忙しかったので、少し気分転換がしたかったんです」

「大事ですよね。気分転換」

「この自然を見ていると、重荷を降ろせそうでとても安らぐのです」

「……」わたしは彼が背負っている責任の重さを感じる。彼は手で水をすくいながら、わたしの方をじっとみてきた。


「カツラギさんは、向こうの世界で恋人はいなかったのですか?」

 王様は突然、切り込んできた。

「と、とつぜん、どうしたんですか?」

 わたしは驚いて咳きこむ。

「すいません、失礼な質問でしたか?」

 彼の眼はとても誠実な色をしていた。


「いえ、ビックリしただけで。いませんよ。もう何年も好きなひとはいないんです」

 <向こうの世界では>という言葉は省略されていた。

「なら、よかった」

 王様は少し安心した顔になる。

「えっ?」


「カツラギさん」

「はい?」





「わたしと結婚してください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ