第19話 月
「大丈夫ですか、カツラギさん」
後ろにいたのは王様だった。
「ハイ、大丈夫ですよ」
「よかった。師匠の作った結界を壊すのが大変で遅くなりました」
「えっ、結界?」
なんかすごいことになっていたようだ。
「ええ。ここの池付近は師匠に結界を張られて近づけなかったのです。ガールフレンドとランデブーしてくると言い残して、消えてしまったので探していたら……。本当にあの師匠は」
「ハハハ」
「とりあえず、ご無事でよかったです」
「ありがとうございます」
よっこらしょと王様はさりげなくわたしの隣に座ってきた。それだけで、ドキドキする。
「今日はお疲れ様でした。どうでしたか?」
「とてもたのしかったですよ。王様の意外な一面もみられましたし」
「お恥ずかしいかぎりです」
「そして、かっこいいところもいっぱいみれました」
わたしは少し陛下をからかってみる。完璧超人ではない王様をみてみたかった。
「からかわないでください」
王様は慌てた感じでごまかした。
「……」
「……」
ふたりは池を見ながら沈黙した。
でも、その沈黙はなぜだか、居心地がよくて……。
「月がきれいですね」
「えっ。ハイそうですね」
わたしは慌ててそう返した。
「どうしました?」
王様は沈黙に耐えられずにそう言ったのだろう。本当に文字通りの意味のはずだ。わたしたちの世界では、その言葉は別の意味をもっているなんて知っているわけがない。
だから、わたしの慌てた理由は伝わっていないはずだ。
わたしは彼の言葉を繰り返す。
「本当に月がきれいですね」と。




