第18話 兄弟
「そうじゃ。やつが後継者に指名されてから、数年後。国王夫妻は奇跡的に実の子を授かったのじゃ」
「それが宰相さんなんですね」
コクリと老人はうなづく。
「やつは、気をつかって、王に進言したのじゃ。自分を廃嫡し、義弟を皇太子にしたほうがよいと……」
「それで結果は?」
「今の通りじゃ。先代夫妻はそれを退けて、やつを皇太子として扱った」
「もう、ふたりの中では、やつは実のこども同然じゃったのだろう。3人、いや、4人は本当の家族になってしまっていたのじゃ」
「すごい決断ですね」
「先代の王が今でも尊敬されている理由じゃな。魔術師としてはそこまでの実力をもってはいなかったが、人格が非常に優れていたひとだったよ」
「いま、先王夫妻は?」
「10年前、世界会議にむかう船が事故で難破してな……」
「それっきり」
「うむ。まだ、宰相が4歳の時の話じゃ」
「やつは2度も家族を失ってしまったのじゃ。だから、残された弟を誰よりも大切にしている。まるで、自分の子供のように」
「……」
「そして、あいつは弟に負い目を感じている」
「負い目……?」
「弟が座るはずであった王位を、結果的に簒奪してしまったことへの後悔。自分をよくしてくれた恩人の実子をないがしろにしてしまっていることへの後悔」
「真面目過ぎますね」
「<過ぎたるは猶及ばざるが如し>とはよく言ったもんじゃ。あいつはわしの弟子なのにくそ真面目すぎる」
月がとてもきれいに輝いていた。
すこしの間、ふたりは無言になっていた。
「だから、やつはいまだに結婚も恋人もいない状態を貫いている。自分が未婚であれば、弟が後継者となる十分な理由となるからな。政治も混乱せず、権力闘争も起きない」
「でも……」
わたしはあえて、それについて批判をしようとした。
「うむ。自分の幸せをないがしろにしてしまうことになっている。やつはそれでもいいと思っているのじゃ」
「……」
「そして、弟はそれを申し訳なく思っているのだ。自分のために、幸せをなげうってしまう兄をみたくはないのだろうな」
「兄弟そろって真面目過ぎますよ」
「血は繋がっていないのに、実の兄弟のような感じじゃ」
フフと村長さんは乾いた笑いをうかべた。
「だから、宰相は今回の奇跡に願ったのじゃ。兄を幸せにしてくれ……と。空から落ちて来た女神様のあなたにな」
「……」
そんな責任重大な立場を、なぜよくわからない自分に。わたしは単なるOLで……異能も特別でもない単なる女なのに。
「では、あとは若いものでということで。邪魔者は退散するよ」
そういうと村長さんはいそいそとどこかにいってしまった。
「大丈夫ですか? カツラギさん」
そう呼ばれて振り返ると彼がいた。王様だった。




